基礎作業として,17~19世紀の清-ロシア間の外交書簡をデータベース化し,それに基づいて翻訳とコミュニケーション・ギャップの実態を検討して,以下の知見を得た。第一に,媒介言語としてのラテン語とモンゴル語には,明確な役割の相違があった。第二に,18世紀前半の清側のロシア語翻訳には,能力不足や意図的な改竄・省略が顕著に見られた。第三に,1708年に設立された内閣俄羅斯文館は,通説とは異なり,外交現場で活動する一定数の翻訳者を輩出した。第四に,19世紀に両国間で結ばれた諸条約には,各言語のテキスト間の異同が従来言われている以上に多く存在し,それが実体的な外交上の紛争を引き起こす例も見られた。
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