2019-21年度の研究を通じて、朝鮮から日本への海藻輸出が少なくとも近世以来、現代に至るまで途切れることなく行われてきたことが明らかとなった。そして潜水漁業者をはじめとする日朝両国の漁民の移動においても、海藻の輸出が重要な契機の一つとなっていたことを知るに至った。一方でこうしたモノとヒトの移動の実態について、実証的に明らかにしうる文献史料は極めて限られており、聞き取りなどの方法を併用する必要があることもまた、明らかとなった。このような知見をもとに、最終年度(2022年度)は、朝鮮産海藻の日本への輸出について、現代も取扱いを続ける事業者からの聞き取りを通じて、過去の経緯を遡及的に明らかにする方法をとった。 具体的には9月25日から27日にかけて、千葉県いすみ市で海藻加工業者2か所を訪問して聞き取り調査を実施した。いずれも紅藻類を建材用の糊料として加工する業者で、その原料であるギンナンソウの相当部分は韓国から輸入されているものであることが明らかになった。また2月17日から18日にかけて、三重県伊勢市の海藻加工業者1か所での聞き取りを実施した。この業者は、現在では食用ヒジキの加工を主業としており、1970年代から原料の相当部分を韓国から輸入するようになったことが明らかになった。 こうした調査のほか口頭発表2件によって研究成果を公表した。 研究期間全体の成果については次のようにまとめることができる。(1)日本人漁業者による朝鮮出漁団体の形成過程の一端を明らかにできた。(2)朝鮮産海産物の採取・流通と消費に至る経路とその歴史的変化の一端を明らかにできた。一方コロナ禍により韓国現地調査ができなかったため、韓国側の漁場秩序の変化という主題については、十分に明らかにできなかった。この点については引き続き検討が必要と考えている。
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