研究課題/領域番号 |
19K01044
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
藤田 高夫 関西大学, 文学部, 教授 (90298836)
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研究分担者 |
吉田 壮 関西大学, システム理工学部, 助教 (70780584)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 木簡 / 書体分析 / 手書き / AI / 行政文書 / 文字の謹直さ / 同筆 |
研究実績の概要 |
本年度は中国古代木簡の字体分析のための基礎的データ集積作業を進めた。素材としては鮮明な赤外線写真が公開されている「台湾中央研究院所蔵居延漢簡」全件、「肩水金関漢簡」全件の図版をスキャンし、木簡1件ごとにJPEG画像としての切り出しを終えた。同時に、この画像から一文字ずつを切り出すためのツールの開発を進めた。 JPEG画像は二万件を超えるデータを集積し終わり、次に「居延新簡」の赤外線写真の集積に着手している。一方、膨大な文字数を効率的に処理するための文字切り出しのためのツール開発では、字体の謹直さにかかわらず基本的には複数文字が続けて書かれることはないという漢代木簡の特性を踏まえ、切り出しツールにおいては、文字が書かれている領域の判別と、文字と文字との間のスキマを検出・判別する方法とを併用することによって、実用に耐えるレベルに達することができた。 こうして切り出された文字のうち、漢簡に頻出する文字を相互に比較することによって、本研究の目的である書体と文書の性格との関連性を探る基礎的データが集積された。また、いわゆる「同筆」を判定する基準、および同一人の手による文字のバリエーション、つまり「書体の揺れ」に関しても、客観的な評価基準を構築する可能性が確かめられた。具体的には一つの「冊書」であることが確実な「候粟君責寇恩事」に含まれる文書を採りあげ、そこに頻出する文字を抜き出して、1件文書のなかでの文字の揺れ、文書間相互での書体の違いの有無を検出する作業を行った。また「永元兵釜鎧簿」の5件の文書の共通文字を比較し、これらが一人の手で書かれたものであるか否かを検証するための基礎的データを集積した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究開始時点ではまだ刊行されていなかった「居延新簡」の赤外線写真を年度後半に入手し、画像の取り込みを開始したが、写真印刷の精度が台湾版と異なるため、解像度を変えて全件を再スキャンすることとなり、「居延新簡」のJPEG画像集積に若干の遅れが出ている。 切り出しツールの開発では、標準的な文字の大きさ、文字間隔の木簡については問題ないが、きわめて小さな文字で複数行にわたって書写された木簡については、文字領域の認識に困難が生じており、その改良が当面の課題となっている。 いずれも次年度中に解決可能であり、研究進捗に大きな影響はない。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる令和2年度では、木簡画像のJPEC化をさらに進め、「敦煌漢簡」「地湾漢簡」「玉門関漢簡」「額済納漢簡」など、他の木簡画像の赤外線写真の取り込みを進める。また、切り出しツールは本年度中の実用化をめざし、ブラッシュアップを続ける。 あわせて、一人の手で書かれたことが確実な木簡文書を対象として、同一人の同一時における書写行為で、文字の書体にどれほどの幅があるのかを検証する。これと並行して、五件の文書が連結された現存最長の冊書である「永元兵釜鎧簿」をサンプルとして、これらが同一人の手によるか否かを判定する手法を構築し、書体分析の応用の幅を拡げていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた海外出張および国内出張が、COVID-19の感染拡大によって中止されたこと、および年度末に想定していたアルバイトによる画像ファイルの整理を、同様の理由でとりやめたことによる。
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