研究課題/領域番号 |
19K01045
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
矢澤 知行 近畿大学, 国際学部, 教授 (60304664)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 元代 / 社会経済史 / 新興商人 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,元代の中~後期の両浙地域における産業の多様化の実態とそれに関わった新興商人の具体像を探ることにより,モンゴル政権下の江南経済の動態を分析するとともに,宋代や明清代の江南地域との連続性あるいは質的相違を明らかにし,この時代の持つユーラシア世界史上の意義を考察することである。 今年度は,元代中後期の両浙地域における社会経済の動態に関する研究に関する基礎史料と先行研究の再検討を進めるとともに,国内外の多様な史資料の蒐集を行い,その整理と講読を進めた。 具体的には,まず,元代中後期の両浙地域における産業の多様化の実態,例えば農業と塩業,絹織物や綿織物等の工業,北方に向けての海運業,高麗・日本・琉球などとの海上貿易などについて,現時点での研究の到達点を確認して整理した。また,研究上の課題を明確化したうえで,関連諸史料(主として両浙地域の地方志)の蒐集に着手した。 次に,産業多様化に伴って成長した両浙地域の新興商人の概要を把握する作業を行った。現時点では,崑山の顧氏(顧瑛ら),太倉の盛氏,湖州の沈氏(沈富(沈萬三)ら),カン(さんずい+敢)浦の楊氏(楊樞ら),黄巌の戴氏,上海の銭氏などについて,文集史料中の碑記・墓誌銘・行状・詩編や石刻史料,元曲・雑劇など関連諸史料の蒐集に着手した。 以上の点について,その一端を研究論文としてまとめ,「元代長江デルタ地域における綿業の展開とその意義」「宋元代の大運河と海運――中国の南北を結ぶ大運河・海運はどのような役割を果たし、どう変化したのか」の二編を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
元代中後期の両浙地域における産業の多様化の実態,とりわけ綿業に着目して研究を進め,その内容を研究論文「元代長江デルタ地域における綿業の展開とその意義」としてまとめた。 同論文では,モンゴル元代の長江デルタ地域における綿業について,国内外の先行研究の成果を整理するとともに,それらをさまざまな角度から検証し,研究上の課題を明らかにした。具体的な内容としては,まず,長江デルタ地域における綿業の勃興とその後の展開が,宋~元~明代にかけての江南社会経済史を解明するうえで,きわめて重要な位置づけにあるという前提のもと,綿業の発達をめぐる一連の展開は,さまざまな内的/外的要因の影響を受けて引き起こされてきたものであり,自然環境,社会経済的状況,技術の伝播の状況,政治状況などの要因がそれにあたり,同時にそれらの要因が複雑に絡み合いながら推移してきたことを明らかにした。結論として,①綿花の栽培から紡績と織布,流通と販売・消費に至るまでの一連の過程を視野に入れつつ綿業の生産技術の発展について精査すること,②綿の生産から消費にいたるまでの過程と具体的な状況,とりわけ元代の中後期に長江デルタ地域で成長してきた新興商人たちの実像を探ること,③元代における制度面での綿業の位置づけについて,綿業による利益を誰が享受したのかという分析を中心に据えて進めること,④宋~元~明にかけての市鎮の形成・発展に与えた綿業の影響を分析すること,そして,⑤内的要因と外的要因という二つの側面を念頭に置きながら,長江デルタ地域内部の人間の活動によって生じる社会経済的環境の変化や,それらと自然環境との間の影響関係,モンゴル政権の対江南支配政策とその段階的変化といったさまざまな要素を考察することが求められていると述べた。 本年度とくに進捗した研究内容は以上である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,元代両浙地域の新興商人の実態解明に向けての研究を進展させる。 両浙地域において多様化した産業の中でも,とくに研究の手薄な松江を中心とする綿花栽培と綿織物工業,崑山と太倉を中心とする海運業,慶元(寧波)を中心とする海上貿易に携わった新興商人たちが,主たる研究対象となる。 その際には,自作のリレーショナル・データベースである「元人総合DB」(後述)内の人物データを活用しつつ,収集した関連史料に基づく新たな情報を随時追加入力する。そして,諸史料を手がかりに,彼らの本拠地,業種,縁故関係,経歴,元朝中央政府やオルトクとの関係などの諸側面を明らかにする。そして,リレーショナル・データベースの利点を活かし,新興商人相互の人間関係や群体としての動向などを分析する。なお,商人を含む民間人は一般に史料上に現れにくいが,彼らの多くは,文人としての側面を持っていたり,在地の地方官に任じられたり,北方から派遣された士大夫官僚と密接な関係を結んだりしているため,関連史料を抽出分析することによって,彼らの具体像を考察することが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) ほぼ計画的に使用してきたが,物品費とその他の項目を中心に若干の未使用額が残ってしまった。 (使用計画) 今回生じた次年度使用額は少額なので,次年度の配分額と合算して,物品の購入などに使用する計画である。
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