研究課題/領域番号 |
19K01050
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浅岡 善治 東北大学, 文学研究科, 准教授 (80347046)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ソ連 / ソヴィエト / ロシア / ウクライナ / 農村 / 農民 / ネップ / 出版 |
研究実績の概要 |
連邦解体後、各国ごとの個別化の様相を呈しつつある初期ソ連農民史の「インターナショナルな」再構築を図るために、在ロシアの史料だけでなく、内容・利用状況等について特色のある在ウクライナの史料を本格導入すべく、研究初年度は8-9月にロシアに、10-11月にはロシア経由でウクライナに渡航し、ロシア国立社会政治史文書館(RGASPI)、レーニン名称ロシア国立図書館、ウクライナ国立中央行政・最高権力機関文書館(TsDAVO Ukraini)、ウクライナ国立中央公共団体文書館(TsDAGO Ukraini)、ウクライナ保安省文書部(GDA SBU)、V・I・ベルナツキー名称ウクライナ国民図書館等で史料調査を実施した。今回初めて訪問したウクライナ中央の文書館は、事前の情報通りロシアよりかなり開放的で、党の文書館では政治局の「特別ファイル」まで閲覧でき、政策立案や意思決定の過程を詳細に追うことができた。8-9月のロシア渡航は研究開始のための準備的作業が中心だったが、それでも連邦中央の文書の精査等について一定の成果があり、その一部は、帰国直後の9月末に実施した早稲田大学ロシア研究所主催の国際シンポジウム「1920年代末―1930年代におけるソヴィエト国家の農業政策の地域的民族的特殊性(ウクライナ、カザフスタン、ロシアの諸地域を例に)」での報告コメント、および同時期に実施したロシア史研究会2019年度大会での自由論題報告「ドゥイモフカ事件と農村党機構(1924-25年)――盛期ネップの地方スキャンダルの再検討」にて早々と活用されている。これらのコメント・報告のうち、前者は同名の『報告集』として早稲田大学ロシア研究所から既に公刊され、後者については、直後に実施した10-11月のロシア・ウクライナでの実地調査の成果を付加して、まもなく論文として公表の見込みである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回初めて実地調査をおこなったウクライナ中央の諸文書館であるが、請求・閲覧については前評判通りだったものの、史料の複写(写真撮影)、あるいはそもそもの文書の残存・所蔵状況については、事前の情報や見込みとはやや異なる場合があった。例えば、国家文書を収めるウクライナ国立中央行政・最高権力機関文書館では閲覧・複写(写真撮影)ともに制限はなかったが、党関連の文書を収めるウクライナ国立中央公共団体文書館では、写真撮影について文書館員の個別的判断による制限が一部存在し、作業の進度に影響が生じた。また政治警察関連の文書を所蔵するウクライナ保安省文書部(GDA SBU)では、閲覧や複写の制限はなかったが、連邦中央の文書(の写し)は少なくウクライナ独自の地方文書がメインで、かつ1920年代までについては都市の政治的案件に偏っており、農村関連のものは限定的だった。旧連邦中央=モスクワの政治警察文書には現在でも一定の利用制限が存在するだけに、この点については研究計画の再検討が必要である。他方で、党中央の文書を所蔵するモスクワのロシア国立社会政治史文書館では、かなり時間を要する史料の請求・閲覧手続きについては今まで通りながら、ごく最近(おそらく今年度)からマイクロ複写史料の画面映像に限定して写真撮影が認められることになり、こちらに関しては作業の著しい効率化・加速化が期待できるようになった。この点は、本研究推進上の新たなプラス要因である。 以上のようにして研究初年度に入手した新史料の分析は概ね順調に進んでいるが、年度末からのCOVID-19の世界的な感染拡大が、今後の研究計画に大きな影を落とし始めている。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度末の段階では、国内の図書館は通常利用から相互貸借に至るまでほぼ完全に機能停止しており、国外からの郵送・電信等での史料供給も望めない状況である。またロシア、ウクライナともに外務省の感染症危険情報ではレベル3、「渡航中止勧告」に該当しており、2020年度夏以降に実施を計画し、一部手配済みだった史料調査目的の渡航も見直しが求められること必至となっている。2019年度の実地調査で入手し、未分析・要分析の史料もまだ相当量存在はするものの、年度計画を意識して入手を次年度に先送りした史料も多く、それらの追加がなければ当面ペンディングとなる作業も少なくない。多くは今後の事態の展開次第であるが、現在のような外的状況が長期化する場合は、研究期間(補助事業期間)の延長も含め、当初の研究計画を大幅に見直す必要が出てくると思われる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末になってCOVID-19の感染が世界的に拡大したため研究活動に制約が生じ、とりわけアルバイトを雇用しての資料整理に大幅な遅延が生じた。2020年度は、事態が終息し次第、これら残存経費を利用してこの作業にあたる予定である。
|