研究課題/領域番号 |
19K01059
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研究機関 | 学習院女子大学 |
研究代表者 |
正本 忍 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (60238897)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フランス / 絶対王政 / 裁判 / 警察 / マレショーセ / 治安 / 民衆 |
研究実績の概要 |
令和4年度も、COVID-19のパンデミックにより予定していた海外史料調査が全くできず、新たな史料の探索・補充ができなかった。そのため、これまでに収集していたマレショーセの裁判文書を読み進めることになった。 昨年度提出した「今後の研究の推進方策」に対応させて実施状況を述べるとすれば、第一に、マレショーセの訴訟手続を史料に基づいて再構成し、抽出できたいくつかのパターンについて分析を進め、訴訟手続が王令の規定通りの実施されていることを確認した、第二に、被疑者逮捕に至るいくつかのプロセスについて分析し、マレショーセの騎馬警察隊員の活動内容を検討した。ただし、「マレショーセから他の国王裁判所に訴訟が移送される事例に注目し、マレショーセとその他の裁判所との関係を明らかにし、国王裁判所体系の中にマレショーセを位置付ける」ことには手が回らなかった。 第一に関しては、昨年度に引き続き、正本忍「マレショーセ(プレヴォ・デ・マレショ)の裁判管轄と訴訟手続により直接的に関わる『刑事王令』(1670 年8 月)の条文(2)(完)」を公表した。また、昨年度、仮訳を終えていた1731年2月5日の国王宣言の条文に関する注釈をほぼ終え、令和5年度に公表する予定にしている。 第二に関しては、マレショーセの訴訟手続に見られる、当事者による「裁判外紛争処理 (infrajustice)」と「裁判利用」を分析し、その成果を12月の九州史学会で「法制史の新たな潮流とその射程 ――日本における最近の研究動向に寄せて」として報告した。これも加筆・修正した後に令和5年度中に公表する予定である。 また、マレショーセの裁判文書読解の副産物として、12月の学習院女子大学学会において、「マレショーセを通して見る近世のフランス」と題する講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は夏季休暇中にフランスの少なくとも2つの古文書館での史料の調査および収集を計画していたが、新型コロナウィルスのパンデミックのため、再び渡航できなかった。入試業務や校務などのため、令和5年の春に渡仏することも適わなかった。私が収集し参照する史料のほとんどすべてが手稿史料でインターネット上で公開されていないため、新たな史料の探索・補充ができず、研究期間の延長を申請せざるを得なかった。令和5年の夏季休暇中は4年ぶりの渡仏調査が可能となるので、より効率的な史料収集の計画を立てたい。 また、諸般の事情により職場の研究室での文献・資料の整理が十分にできず、これまで収集してきた史料のコピー、同時代文献、参考文献を十分に活用できなかっため、研究の細部を詰めきれなかった。ただし、年度末までに状況は大いに改善されたので、次年度には大きな支障は来さないと思われる。 さらに、3年ぶりの対面での講義とハイブリッド講義への対応に思いのほか時間をとられたこともあって、予定していたようには研究を進められなかった面もある。この点に関しても、令和5年度からハイブリッド講義がなくなり、新たな職場環境にもかなり慣れたので、研究はより順調に進むと期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスのパンデミックにより2年間の延長を余儀なくされたとはいえ、次年度が最終年度であるので、研究をまとめる方向へ進まざるを得ない。当初掲げた課題は3つ、すなわち、マレショーセの警察部門の活動の実態解明(課題1)、マレショーセの裁判部門の活動の実態解明(課題2)、マレショーセの活動に対する民衆の対応の解明(課題3)であった。 課題1では2つの作業を設定した。①「マレショーセの職務に関する訓令」による職務内容の把握に関しては、史料の読解をほぼ終了したので、職務内容を整理することになる。②プレヴォ裁判文書の分析による活動の実態解明に関しては、手持ちの史料の読解と分析を進めつつ、夏季休暇中の渡仏で史料を収集・補充することになる。 課題2では3つの作業を想定した。①王令等の分析による裁判管轄の再確認、訴訟手続の再構成については、1731年2月の国王宣言の訳出・注釈を公表する。②マレショーセの裁判文書の分析による活動の実態解明も、手持ちの史料の読解・分析を進め、必要があれば、夏季休暇中に史料を補充したい。ただし、③マレショーセと他の裁判所の間の裁判管轄争いの分析については、手持ちの史料から得られた情報が少なく、新たな史料収集で十分な情報が得られる確信も持てないので、作業継続を断念する。 課題3ではマレショーセに対する地域住民の、積極的あるいは消極的な協力と抵抗の事例の抽出と分析を考えていた。これに関しては、裁判文書中の逮捕調書を主史料と想定していたが、研究を進めるうちに証人尋問調書の閲覧が重要だと判明した。証人尋問調書はこれまで積極的に収集してこなかったので、新たな史料収集が不可欠となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、第一に、COVID-19のパンデミックにより予定していた海外史料調査が全くできなかったこと、および学界・研究会のオンライン開催により予定していた国内出張のほとんどがなくなったこと、第二に、個人研究室の書架の不足により参考文献の購入を控えたことによる。 次年度に繰り越す金額は、主に出張旅費(国外および国内)と文献購入に当てる予定である。
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