昨年度の研究成果として、鈴木は論文「近世プロイセン軍の軍事条章」」を発表した。軍事条章とは軍法や将兵の勤務契約を含む法文書のことで、この論文では近世プロイセンにおけるその変遷過程、さらに法規範適用の現実を検討し、規範と実態のズレという近世常備軍の特質を考察した。ここで提示した近世常備軍の性格規定の問題は、当時の軍事扶助事業をどう理解するかという問題とも密接に関連している。丸畠は論文発表に至らなかったものの、『兵士の友』という兵士向け軍内雑誌を史料にして軍事扶助を扱う論文を準備中である。その作業ではすでに、軍事扶助の制度的基盤がいまだ整っていない19世紀前半において、連隊の心ある将校たちが共済組合などの相互扶助組織を立ち上げていた、すなわち連隊という下部組織から自発的な相互扶助の動きがあった、という興味深い事実を発見している。この知見は今年度には形にすることができなかったが、来年度には公表されるはずである。
一昨年度の日本史研究者に引き続き、昨年度は計画通りフランス近代軍事史とロシア近代軍事史研究者を招いて、軍事扶助の問題について意見交換することができた。2022年12月に科研講演会を中央大学で開催し、フランス史について西願広望氏から「傷の意味 -革命・帝政期のフランス軍を中心に」との報告を、ロシア史については松村岳志氏から「1820年代前半のロシア第2軍将兵の処遇」との報告をいただいた。特に前者のフランスに関する講演からは、廃兵院の運営の民主化や年金の整備などの点において、やはり軍事扶助の領域においても革命が一つの画期となっていることが分かった。またロシア史については、アルテリと呼ばれる兵士の相互扶助組織があることを学んだ。これらの事例はいずれも、プロイセン史における事例と比較検討されねばならない。
|