研究課題/領域番号 |
19K01066
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
西村 善矢 名城大学, 人間学部, 教授 (30402382)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 領主制 / モンテヴェルジネ修道院 / 農地契約文書 / 文書利用 |
研究実績の概要 |
本研究は、カンパニア地方の農地契約文書を主な素材に、文書形式と契約内容の分析を通して、契約当事者である領主・農民間の契約をめぐる交渉の痕跡をあぶり出し、当事者双方の文書実践の諸側面を明らかにすることを目的としている。研究の初年度にあたる2019年度は、カンパニア州内陸部のアヴェッリーノ地方に伝来する、11世紀から12世紀前半にかけて作成されたモンテヴェルジネ修道院伝来の農地契約文書を主な素材として、上記の問題に取り組んだ。 その結果、以下の結論を得た。アヴェッリーノ地方ではサレルノ地方など、ランゴバルド法的伝統を有する南イタリアの他地域と同様に、「メモラトリウム」という当事者双方の合意に基づく双務的な形式に則って農地契約文書が作成された。当地方は山岳・丘陵地帯にあることから、栗の栽培に関する契約が目立つ。内容に注目するならば、時の経過とともに契約の長期化が志向され、11世紀中葉以降、領主と農民は安定した持続的な契約を結ぶ傾向が見られる。また、契約書面に借地人の労働条件や土地の生産性を考慮した条項を盛り込み、農民が地代を過大に負担することのないよう配慮している。この点は、ノルマン人が領主として君臨する12世紀にも妥当する。ここでは、領主が文書を戦略的に利用したサレルノ地方の場合とは異なり、領主・農民間の交渉と契約書の作成が、領主の農民に対する恣意的な搾取と支配を強化する方向に働くことはなかった。 本研究の意義は、アヴェッリーノ地方についてサレルノ地方とは異なる領主、農民の文書利用や領主支配のあり方を示したことにある。なぜ当地方では領主・農民関係がこのような展開を遂げ、文書が領主に有利に作用しなかったかを明らかにするには、修道院に伝来する他の文書を読み解くだけでなく、カンパニア地方の他地域の文書を紐解く必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はモンテヴェルジネ修道院伝来の農地契約文書を主たる検討の対象として扱うことを予定し、実際に当該文書の文書形式、契約内容の双方について十分に検討を加えることができた。ただし、当修道院伝来の他の類型の文書の分析については、今後の課題となった。なお、昨年8月にはイタリアに出張し、修道院の立地するアヴェリーノ地方を実地調査するとともに、ヴィト・ロレ氏(ローマ第三大学准教授)と日本での講演会に関する打ち合わせの時をもつことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、当初イタリアからヴィト・ロレ(ローマ第3大学)准教授を招聘して講演会を開く予定であった。しかし新型コロナウイルスの世界的拡大という予期せぬ出来事が生じたため、研究者招聘は延期となった。2020年度はビザンツ的伝統のもとにあるアマルフィ地方の農地契約文書を対象に、文書形式、契約内容の検討を実施する予定である。そして可能であれば、2021年3月にイタリアに出張し、資料収集するとともに、研究者招聘のための研究打ち合わせを改めて行いたい。 2021年度にはヴィト・ロレ准教授を招聘して講演会を開催し、翌2022年度には、イタリアより別の研究者を招聘し、ミニシンポジウムを実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降、海外から研究者を2名招聘するため、より多くの予算を確保する必要があると判断した。また、研究対象地域の地図購入を次年度以降に先送りした。これによって、14万円余を繰り越した。
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