研究課題/領域番号 |
19K01067
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
肥後本 芳男 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (00247793)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 毛皮貿易 / 奴隷制 / アボリショニズム / 先住民 / 反奴隷制協会 / 言論統制 / ジェイコブ・アスター / トマス・ジェファソン |
研究実績の概要 |
2020年度にはコロナ禍で海外調査を断念したこともあり、本研究課題について十分に掘り下げることができなかった。しかし海洋からの視点で建国間もない新生アメリカが地理的にも未知の遠く離れた太平洋北西部沿岸にどのように関心を寄せ、この地域への進出を構想したのかを当時の国際関係の文脈に位置づけて再検討した。同時に、中西部や南西部からの白人開拓者が入植するにつれて奴隷制をめぐる議論がいかなる展開をみせたのかについて事例研究を検証した。 具体的には、建国期から19世紀初頭にかけて太平洋北西部沿岸がアメリカ商人や政治指導者にどのように認識されるようになり、北西部地域への植民がいかに進展していったのかを考察し、太平洋北西部への貿易拠点の建設及び入植過程、とりわけ1830年代以降のアボリショニズムの浸透について先行研究や論文の収集に努めた。その結果、一般的には「自由州」となるように見込まれていたオレゴン領域にも1830年代末には南西部から奴隷が持ち込まれており、準州政府創設にあたり論争の一つになっていたことを突き止めた。 研究実績として、ミシシッピ川以東の新領土を得た建国期のアメリカ共和国から見て、トマス・ジェファソンやボストン、ニューヨークの主要な商人がなぜ、どのような経緯ではるか遠方の太平洋岸北西部地域に強い関心を向けるようになったのかを考察した。新生アメリカのこの地域への関心の高まりは、イギリスのクック船長の太平洋探査航海の航海記や類似の様々な探検記に起因すること、クックの第3回大平洋航海以後、ヨーロッパ列強はコロンビア川からピュージェット湾岸地域に進出し始め、同地域がアメリカの国益にとって重大な意味をもつようになった経緯を明らかにした。その成果は、12月12日に日本西洋史学会第70回年次大会にて「航海記の出版ブームと新生アメリカの北西部開拓」と題する研究報告で公開した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度初めに当たる春先からコロナ禍が拡大したこともあり、2020年度は途中で研究計画の見直しを余儀なくされた。一つは、急遽オンライン授業への変更に伴いオンラインでの双方向の授業運営を担保するための学生対応などに時間と労力をとられたことと、二つ目は、アメリカ西部へのアボリショニズムの台頭と地元住民の反発について現地調査するために夏季休暇中に予定していた米国のアーカイブや主要図書館での調査が不可能になったことなどが研究の進捗状況に影響を与えた主要因であった。 政府から非常事態宣言が出され海外での必要な現地調査の実施が不可能になったという不測の事態に対処するため、2020年度は本研究課題を二つの研究テーマ(①海洋からの太平洋北西部への入植とアボリショニズム、②環大西洋アボリショニズムのアメリカ西部への拡大)に絞り込んで、国内でアクセスできるデジタル資料や関連する最新の先行研究の収集と整理を軸に研究課題の推進に取り組んだ。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、第一に建国期から19世紀初頭の太平洋北西部沿岸をめぐる米英の攻防とこの地域でのアボリショニズムの浸透や対立、第二に中西部、特に旧北西部領土地域における奴隷制をめぐるコミュニティ内の緊張・対立について相互に関連しあう2つの研究テーマを同時並行的に研究していく。とりわけ、1820年代以降の中西部へのアボリショニズムの浸透とローカルな政治文化の変容に関する研究は、いまだ十分に蓄積されているとは言えないので、アメリカ西部におけるアボリショニズムの台頭に対して西部のコミュニティがいかなる反応を示したのか、奴隷制をめぐる西部コミュニティの変容過程が、どのようにセクション間の亀裂を深めていくことになったのかなどについて、一次史料に依拠しつつ事例研究を進めていく予定である。 2021年度も世界的にコロナ禍が長引き、アメリカ国内のアーカイブや主要な図書館の閉鎖が長引くようであれば、1820年代から40年代にかけての英米のアボリショニストの活動に関するアクセス可能なデジタル資料に当たり、それらを体系的かつ慎重に精査し検討を加えてゆく。研究成果は、なるべく早い段階で研究報告および論文として公表していきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、夏季休暇中に研究課題に関する米国の主要アーカイブや大学図書館などでの史料調査・閲覧を計画していたが、春先以降コロナ・ウイルスの世界的な感染拡大が起こったため、現地調査計画の実施を見送らざるを得なくなった。そのため現地調査のために計上していた航空運賃及び現地での滞在費などが消化できなかった。 加えて、国内における関連学会および研究会活動も、ほとんどすべてオンラインに変更されたことにより実際に会合場所に出向くための出張旅費の支出もなくなった。このように計画していた旅費・滞在費の消化できなかったため次年度以降に大きく予算を繰り越すことになった。 2021年度は学内の認可を受けて在外研究が決まっており、ワシントン大学の歴史学部を拠点として史料収集・論文執筆を精力的に行うつもりである。科学研究費の一部を各地のアーカイブなどに出向くための旅費に充てたいと計画している。また貴重な研究資料やマイクロフィルムなど研究計画の遂行上重要で入手可能なものがあれば、ぜひ購入したいと考えている。さらに様々な資料やデータをデジタル化し持ち帰れるようにポータブルのスキャナーの購入も検討するつもりである。
|