研究実績の概要 |
本研究課題は、奴隷制廃止運動の展開を一国史の枠組みでとらえるのではなく、18世紀末に急速に台頭した環大西洋アボリショニズムとその政治文化史的影響の解明を目指した。 研究期間最後の2年間は、アボリショニズムと暴力の関係について分析を進め、2本の研究報告を行った。「「狂暴の30年代」と急進的アボリショニズム」、同志社大学アメリカ研究所第1部門研究会(2022年7月26日);「19世紀の急進的アボリショニズムの台頭と暴力-ポピュリズム史研究の視点から」、関西アメリカ史研究会年次大会(2022年11月13日)。 本研究課題の最終年には、西部へのアボリショニズムの浸透とコミュニティの関係を探求した。急進的アボリショニズムがコミュニティの伝統的法秩序を動揺させたことを明らかにした。加えて、19世紀初頭には正規医療を疑問視するトムソニアン主義者が急増したが、彼らがアボリショニズムと親和性をもつことを突き止めた。日本アメリカ史学会次大会において「アンテベラム期のトムソン療法の台頭と医療ポピュリズム」(2023年9月16日)と題する報告を行った。 海から見たアメリカ革命の影響として、米国の関心が太平洋海域へ移った要因を探究した。「アメリカの広東貿易の開始とアストリア砦-太平洋北西沿岸部の領有権をめぐる帝国抗争」、田中きく代他編著『海のグローバル・サーキュレーション―海民がつなぐ近代世界』(2023年); “The Imaginative Power of Travel Journals and the Fur Trade in the Early American Republic,” Doshisha American Studies 23 (2024). さらに、共著『アメリカ研究の現在地-危機と再生』(2023年)と『アメリカ史―世界史の中で考える』(2024年)を出版した。
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