研究課題/領域番号 |
19K01068
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
林田 敏子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (10340853)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 西洋史 / イギリス史 / 第一次世界大戦 / 博物館 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究はイギリスのジェンダー構造に大きな変化をもたらした第一次世界大戦を、戦争博物館という媒体を通して考察しようとするものである。 本年度はまず、大戦中に帝国戦争博物館(Imperial War Museum: 以下IWM)のコレクションをもちいてイギリス各地で開催された戦争展に焦点をあて、展示カタログや戦争展の開催に関する博物館文書、新聞報道などを通して、展示内容の分析をおこなった。大戦中、イギリスでは女性労働をテーマとする複数の展覧会が全国で開催された。それらをリスト化した上で、主にロンドンで開催された戦争展を戦局や戦時動員政策との関係性のなかに位置づけながら、戦争博物館が有した同時代的に意味について考察した。 戦争博物館および戦争展は、死者を公的空間で認知するための場であり、また遺族が悲しみを表現し、近親者の死に意味を付与する場であった。さらに、そこは人々が戦時という「今」に対処し、その全貌を把握するための場であると同時に、訪れた人が戦争という出来事の全貌をジオラマなどのビジュアル展示を通して把握するための場でもあった。以上の研究成果をもとに、2020年2月14日に大阪市立大学大学院文学研究科都市文化研究センターで開催された第6回年文化研究フォーラム「市民社会と軍事―多様なメディアから紐解く―」で研究発表をおこなった(タイトル「博物館というメディア―第一次世界大戦期イギリスにおける戦争展―」)。フォーラムでは、戦争博物館を「死をも含めた個々の戦争体験が価値づけられる空間」ととらえ、戦時メディアとしての博物館が果たした機能を分析するとともに、軍事とメディアに関するさまざまな知見に触れながら、活発な意見交換をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はコロナの影響で夏期に予定していたイギリスでの史料調査を断念せざるを得なかったものの、すでに入手済みであった史料や、博物館のデータベースを活用することで、断片的に収集した史料をもとに、戦争博物館が創設される直前に全国で実施された戦争展の全貌をほぼ把握することができた。コレクションの詳細や戦争展の開催に関する博物館と各女性団体のやり取り等、従来の研究では明らかにされていなかった事実や経緯についての知見も新たに獲得し、これらの研究成果をフォーラムでの口頭発表につなげることができたため、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「女性が女性をコメモレイト(顕彰)する」という観点から、帝国戦争博物館の女性労働小委員会が発揮したイニシアティヴとその限界についての分析を試みる。博物館の運営議事録、外部団体とのやり取り、展示カタログといった文書史料はもとより、絵画や写真、模型といった美術史料、ビジュアル史料の分析が不可欠と考える。小委員会のコレクション・ポリシーを明確化し、企画から収集、展示までのプロセスを丹念にたどることで、小委員会がコレクション形成や展覧会の開催に際し直面した諸問題を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で夏期に予定していたイギリスでの史料収集および現地調査を延期せざるを得なくなったため、次年度使用額が生じた。来年度も史料調査ができなかった場合は、新聞データベース等、オンライン史料の購入にあてたい。
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