研究課題/領域番号 |
19K01068
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
林田 敏子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (10340853)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 西洋史 / イギリス史 / 第一次世界大戦 / 博物館 / ジェンダー / 語り |
研究実績の概要 |
本研究はイギリスのジェンダー構造に大きな変化をもたらした第一次世界大戦を、戦争博物館という媒体を通して考察しようとするものである。 本年度は帝国戦争博物館のコレクションを収集した委員会の一つである女性労働小委員会に焦点をあて、「女性が女性をコメモレイト(顕彰)する」ことに大きな意義を見出した同委員会が発揮したイニシアティヴとその限界に迫った。とくに絵画や写真、模型といった美術史料・ビジュアル史料の収集過程に着目することで、女性労働小委員会がテーマ設定、画家の選定から制作依頼まで一手に引き受け、博物館のコレクションづくりに積極的に関与した事実を明らかにした。小委員会の報告書や調査書、女性写真家の回想録といった史料の分析を通して、女性労働小委員会のコレクション・ポリシーを明確化するとともに、企画から収集、展示までの一連のプロセスを再構成することで、小委員会が直面した問題を当時のジェンダー概念との関わりのなかで考察した。以上の研究成果をもとに、論文'Museum as Propaganda'を執筆し、UrbanScope(12,2021)に発表した。 また、捕虜、脱走兵、良心的兵役拒否者など、コメモレイトの対象から排除されてきた「弱き男たち」に焦点をあてることで、戦争博物館が描く戦時マスキュリニティの揺らぎについても考察した。兵士として勇敢に戦うことがマスキュリニティの核となる戦時にあって、戦争神経症に罹患した兵士たちは、自らが喪失したマスキュリニティをいかに回復しようとしたのか。戦後に立ち上げられた戦争神経症に関する調査委員会での証言に着目しながら、伝統的な戦時マスキュリニティがいかに修正され、再構築されたかを「覇権的マスキュリニティの揺らぎ?」と題する論文にまとめ『日本ジェンダー研究』(24,2021年)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナの影響で、夏期に予定していたイギリスでの現地調査および史料調査は断念せざるを得なかったものの、陸軍博物館が新たにオープンアクセスを許可した史料や複数の刊行史料をもとに、当初予定していた調査の大部分を終えることができたため、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究の総仕上げに向け、(戦争)博物館に所蔵されている回想録の収集・整理・分析をおこなう。そのさい、1990年代に大規模な「語り」の収集をおこなった帝国戦争博物館だけでなく、1960年代から70年代という大戦ブームのさなかに創設された国立陸軍博物館および空軍博物館も調査の対象に組み入れることで、70年代と90年代の比較を試みる。同時に、大戦経験者の回想録やインタビューをもとにBBCが制作した映像コンテンツ(ドラマや映画)の分析を通して、博物館やテレビといったメディアを通した大戦像の構築と変容について考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で夏期に予定していたイギリスでの史料収集および現地調査を延期せざるを得なくなったため、次年度使用額が生じた。
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