本研究はイギリスのジェンダー概念に大きな変化をもたらした第一次世界大戦を、戦争博物館という媒体を通して考察しようとするものである。本年度は、第一次世界大戦末期に設立された帝国戦争博物館、1960年代から70年代にかけて創設された国立陸軍博物館、空軍博物館の活動に焦点をあて、「戦後」という長い時空間のなかで大戦の歴史が紡がれ、変容していく過程を、女性による戦争の「語り」の蒐集プロセスに探った。とりわけ大戦の記憶に対する関心が高まりを見せる1970年代から90年代にかけて、回想録やインタビューといった史料が博物館によってどのように蒐集されたかを同時代における大戦像の変容と関連させながら考察した。 本研究では、1910年代、30年代、70年代、90年代という4つの時間軸を設定し、戦争博物館が果たした機能を多角的に検証することで、大戦と女性をめぐる記憶や歴史が構築されるプロセスを明らかにした。第一次世界大戦中に考案された帝国戦争博物館は、戦争の記録を網羅・集積するアーカイヴであると同時に、戦意発揚と資金集めのためのプロパガンダ機能を果たし、総力戦への貢献や犠牲を顕彰するという同時代的意義を有していた。博物館による史料収集は戦後も長く続けられ、時代に即した企画展の開催を通して、戦争博物館は大戦像を創出/修正し、これを社会に広く発信する「劇場」として機能した。また、博物館のコレクションや展示が「つくられる」過程には総力戦を支えた女性たちも深く関わっていた。博物館の展示の「客体」としての女性と、コレクションと展示をつくる、あるいは博物館に自らの大戦経験を語る「主体」としての女性の役割に注目しながら、女性の大戦経験がいかに意味づけられ、価値づけられていったのかを明らかにした。
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