研究課題/領域番号 |
19K01069
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研究機関 | 常磐短期大学 |
研究代表者 |
安井 教浩 常磐短期大学, キャリア教養学科, 教授 (10310517)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヨーロッパ民族会議 / 少数民族 / 戦間期ヨーロッパ / 多民族国家 / 国際連盟 / マイノリティ条約 / 国境問題 |
研究実績の概要 |
ヨーロッパ民族会議の展開を複眼的ないし多層的に考察することを目的とする本課題研究が、まず初年度において果たすべき課題として設定していたのは、次の2つの課題である。 1つ目は、ヨーロッパ民族会議の基本的構造を理解するうえで不可欠となる会議参加者の正確なリストの作成である。会議参加者については、会議事務局が発行する年次大会の議事録に依拠した従来の研究では、エントリーのみ行った者と実際の参加者とがない交ぜになるなど、誤りが継承されてきた。また、会議に参加しても目立った活動が見られない民族グループや参加者については、氏名すら明らかでない場合も少なくなく、ましてやその人物像や経歴までを把握しようとする作業は行われてこなかった。そこで本研究では、会議参加者を、議事録のみならず戦間期ヨーロッパの各国の少数民族問題に関する諸史料・文献に拠りながら、まずは民族グループごとに分け、それをさらに居住国ごとに分けたうえで正確な氏名を特定し、その経歴についても調査を行い、民族会議の正確な輪郭を把握することに努めてきた。以上は、本研究課題にとっての、あくまで基礎的な作業ではあるが、それ自体が民族会議の研究に大きく貢献するものと自負している。 2つ目の課題は、同会議の「第1期」ともいえる1925~27年の会議の様相を分析することである。ここでは、とりわけドイツにおける少数民族(ポーランド人、デンマーク人、ソルブ人、リトアニア人) の動向を理解することが重要となる。幸い1つ目の課題である参加者リストの作成作業の中で、これまでの研究では知られていないデンマーク人やソルブ人の会議参加者についての詳細なデータを集積することが出来、独創性をもった研究への今後の道筋をつけうる実感を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の初年度では、会議の創設からポーランド人グループおよびドイツの少数民族グループが脱退するまでの「第一期」(1925~27年) について考察を十分深めることを予定していたが、この点については作業にやや遅れが生じている。その理由は主として次の点にある。 「第一期」における特徴的な問題の一つとして、ポーランドのウクライナ人、ベラルーシ人、リトアニア人の会議参入の問題がある。ポーランドに帰属しているとはいえ、居住する地域においては住民の多数を占めるこれら諸民族は自らを「少数民族」とは見なさず、また既存の国境を是認した上での議論という民族会議の方針にも反対であった。そのため、これらの民族は「第一期」をオブザーバーとして参加することになったが、その間の事情を、これら諸民族の論理とそれに反発するポーランド人の言動などを突き合わせながら検討を続けていた折、ベラルーシ語の学術誌『ベラルーシ歴史評論』から寄稿の話があり、「ベラルーシ人とヨーロッパ民族会議 1925~1938」と題する学術論文を執筆して同誌に寄稿することになった。テーマが時期的に「第一期」の範囲を踏み越えることにはなるものの、ベラルーシ人の動向から見てとれる「領土的民族」の要求は、民族会議の歴史全体を通じて重要な問題であり続けたものであり、今後の研究の進展も見越してこの論文執筆に相応の時間が割かれることになり、上記の作業において遅れを生じたものである。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に予定していた「第一期」(1925~27年) の分析において、やや遅れが生じているとはいえ、本研究の当初の方針に大きな変更はない。2年目となる今年度は、「第一期」(1925~27年) の分析をさらに続けるとともに、ユダヤ人グループの脱退によって民族会議が大きく変貌するまでの「第二期」(1928~33年) の検討にも入る予定である。 ただ心配されるのは、研究の早い段階での実施を予定していた連邦文書館をはじめとするドイツの文書館・図書館や国際連合図書館などでの史料調査が、コロナ禍による勤務上の諸々の変更や渡航の制約により、2年目の実施が叶うかどうかが不明となった点である。 その一方で、こうした状況の中でも研究の進捗をはかる好材料もある。それ相応の時間と費用を投じてドイツの図書館で調査を行うことを覚悟していたドイツの少数民族グループの機関誌 Kuturwehr について、本研究にとり最も重要な時期の号をほぼ現物で入手することが出来たのである。 今後も出来しうる不測の事態を迎えても、本研究計画に即した研究の進展に努めていく覚悟である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度においては、夏季休業期間にドイツおよびポーランドでの史料調査を、また本研究の基礎となる参加者リストの作成作業を通してカタルーニャ人グループについての理解を深める必要性を痛感し始めたため、春季の休業期間にはバルセロナでの資料調査を予定していた。しかし、本研究の開始後、研究協力者として参加している中京大学社会科学研究所の科研費によって、夏季休業期間にポーランドでの調査に同行することが決まり、また2020年2月には、カタルーニャ研究院が主催するバルセロナでの国際学術会議に参加することになり、初年度の交付額の大きな部分を占めていた旅費を使用することなく終わった。 次年度は、コロナ禍の動向に左右される可能性があるものの、ドイツ、スイス、スペインなどでの海外調査を予定しており、旅費とそれに伴い収集する史料の代金として助成金の有意義な支出に努めるつもりである。
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