研究課題/領域番号 |
19K01069
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研究機関 | 常磐短期大学 |
研究代表者 |
安井 教浩 常磐短期大学, キャリア教養学科, 教授 (10310517)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヨーロッパ民族会議 / 少数民族 / 戦間期ヨーロッパ / 多民族国家 / マイノリティ条約 / ユダヤ人 / 国際連盟 / 国境問題 |
研究実績の概要 |
本来は本年度が本研究課題の最終年度となるはずであったが、依然としてつづくコロナ禍の影響で、当初から研究計画における最も重要な作業として挙げられていたドイツの Bundesarchiv、ジュネーヴの国際連合図書館、イスラエルの Central Zionist Archivesでの史料調査を本年度もはたすことができなかった。本研究課題の期間延長を申請した所以である。そうした中で、本年度達成できた成果として主に次の2点を挙げることができる。 1つ目は、ヨーロッパ民族会議の研究において、これまで解明されてこなかったポーランド・ユダヤ人の民族会議に対する姿勢および同会議に派遣されたポーランド・ユダヤ人代表の言動を明らかに出来たことである。ドイツ人、ポーランド人の両グループとともに民族会議において大きな役割を演じたユダヤ人グループの動向を詳細かつ正確に把握することは、本研究課題において極めて大きな意義をもつ。とりわけ、当時のヨーロッパで最大のユダヤ人口を誇るポーランド・ユダヤ人と民族会議との関係は、同会議におけるユダヤ人グループの動向を左右するものであった。本年度は、ユダヤ人グループが会議に参加していた全期間 (1925~1933年) における、すべてのユダヤ人参加者の出身国における経歴、政治的立場、会議での言動などを詳細に検討した上で、ポーランド・ユダヤ人と民族会議との具体的関係を明らかにし、英語論文としてまとめることができた。この成果はグダニスク大学より出版される歴史論集に掲載されることになっている。 2つ目の成果として、戦間期において、民族会議とともに少数民族問題の国際的検討の場を提供していた国際連盟協会、列国議会同盟、国際法学会についての資料収集を進めることが出来、民族会議の歴史をより広い文脈の中で位置づけるうえで重要なこれら国際機関についての理解を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、当初、ヨーロッパ民族会議の歴史を、その大きな節目を捉えて「第1期」(1925~27年)、「第2期」(1928~33年) 、「第3期」(1934~38年)に分け、とりわけ最初の2つの時期に重点を置きつつ年代順に検証してゆく予定であった。初年度は、研究計画通りに、まずは民族会議の基本的構造を把握するうえで不可欠となる会議参加者の正確なリストの作成作業を進めていた。そうした折、ベラルーシ語の学術誌にヨーロッパ民族会議について寄稿する機会を得、「ベラルーシ人とヨーロッパ民族会議 1925~1938」と題する学術論文を執筆することになった。その後、「第1期」(1925~27年)の本格的検討に入ったものの、まもなくコロナ禍のために、先行研究の枠組みを越えた本研究課題の独創性を問うためには是非とも必要となるドイツ、ジュネーヴにおける関連文書の調査を実施することができないままとなった。そこで本年度に至り、これまで収集した史料によっても研究成果の質を保障しうるテーマと判断された「ポーランド・ユダヤ人の視点から見たヨーロッパ民族会議 1925~1933」の研究に多くの時間を費やすことにした。いずれも、時代順に検討を重ねるよりも、特定の民族の視点から民族会議の歴史を描いたものとなっており、本研究課題で重視している「第1期」と「第2期」の全面的解明にはまだいくつかの課題が残されている。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍によって海外調査を実施できないままに本研究課題の期間を1年延長することになったが、残された研究期間の間に海外で念願の作業に携わることが出来る可能性は甚だ低い。それでも本研究課題の期限が終わろうとする中で、今後は、「第1期」ともいえる1925~27年におけるヨーロッパ民族会議の様相について、とりわけドイツにおける少数民族 (ポーランド人、デンマーク人、ソルブ人、リトアニア人) の動向を中心に分析することに専念してゆきたい。実は、本研究を進める中で、「第1期」についての多角的検討は、ポーランド人をはじめとするドイツ国内の少数民族がヨーロッパ民族会議に参加していた1925~27年の時期に限定されるものではなく、ポーランド人グループの復帰をめぐって「第1期」の問題は1930年代はじめまで、すなわち「第2期」まで継続していることが判明した。したがって「第1期」の本格的検討は、未だ果たせていない「第2期」の諸課題にも関わることになる。 先行研究で用いられているドイツ、ジュネーヴの文書館を利用できないまま最終的なまとめに入らなければならないのは残念ではあるが、幸いこれまでの作業の中で、従来の研究では知られていないデータ、例えばデンマーク人やソルブ人の会議参加者についての知識・情報を蓄積することが出来るなど、一定の独創性をもつ研究成果への道筋を何とかつけることが出来たと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初から研究計画に明記していたドイツの Bundesarchiv、ジュネーヴの国際連合図書館、イスラエルの Central Zionist Archivesをはじめとする海外での史料調査をコロナ禍のために実施出来ないまま、それでもその機会を窺いながら2年目と3年目を過ごすことになった。その間、新たに知ることになった関連資料や書籍の入手に一定額の支出を充てることになってきたが、その上でなお海外調査の可能性を残そうとして次年度使用額が生じることになった。 こうした中で次年度は、コロナ禍のために過去2年取り寄せを控えざるを得なかったポーランドの文書館資料の複写での入手、およびポーランド語での成果発表に際してのネイティヴによる校正などに使用する予定であり、またCentral Zionist Archives に関しては、信頼しうる補助者を通じての複写資料の入手を試みる予定である。いずれも助成金の有意義な支出に努めるつもりである。
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