研究課題/領域番号 |
19K01072
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
津田 博司 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30599387)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カナダ / オーストラリア / ニュージーランド / 国旗 / 国歌 |
研究実績の概要 |
今年度は、1970年代のオーストラリアおよびニュージーランドにおける新国歌制定をめぐる論争の過程を検証した。新型コロナウイルスの感染拡大によって海外渡航が不可能になったため、日本でも入手可能な出版物を分析の材料としつつ、昨年度に取り組んだカナダの事例との比較に集中することで、研究の継続に努めた。 オーストラリアでは、脱イギリス的志向の強いホイットラム労働党政権が、伝統的な愛国歌「アドヴァンス・オーストラリア・フェア」を新国歌として制定した。続くフレイザー自由党政権はこの方針を翻し、1976年に旧国歌「女王陛下万歳」を(王室に関連する式典などに用いる)王室歌として再制定するとともに、翌年に国歌をめぐる国民投票を実施した。この投票では、「アドヴァンス・オーストラリア・フェア」が約半数の支持を集めた。しかし、他の候補を圧倒する結果ではなかったため、新国歌と王室歌としての旧国歌が並存することとなり、この曖昧な状態が1980年代に至るまで継続した。 ニュージーランドでは、政権与党による急変は見られず、むしろ第2次世界大戦以前から続く長期的な問題として、他国と共通する国歌「女王陛下万歳」と自国のみの愛国歌「ゴッド・ディフェンド・ニュージーランド」の関係が議論されてきた。1977年に「女王陛下万歳」および「ゴッド・ディフェンド・ニュージーランド」を対等な第一・第二国歌とする決定がなされることになるが、実態としては「ゴッド・ディフェンド・ニュージーランド」が新国歌として広く用いられ、「女王陛下万歳」は王室歌として位置づけられるという、オーストラリアでは放棄された状態に帰結することとなった。 両国での議論の過程では、カナダの新国旗が国民国家の象徴を刷新した成功例としてしばしば言及されており、旧イギリス帝国植民地の相互関係の重要性を示すものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染拡大により、オーストラリアおよびニュージーランドでの史料調査を実施することができず、研究実施計画の変更を余儀なくされている。現地でしか閲覧できない史料を利用できず、政府による統計調査といった重要な情報源を欠いた状態で研究を進めることとなったものの、両国における国旗・国歌をめぐる議論において、カナダの新国旗・国歌が先行事例として紹介されるなど、旧イギリス帝国植民地の相互関係の一端を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、1990年代から現在にかけての君主制をめぐる議論、とりわけオーストラリアにおける共和制国民投票を主軸として、新国旗制定をめぐる軋轢の構図の分析に取り組む。採択時の研究実施計画では、各国の国立図書館での史料調査や現地での当事者からの聞き取りを予定していたが、新型コロナウイルスの流行に伴う入国規制の継続が見込まれるため、オンラインでの史料の入手やインタビューによる補完に力点を置きながら、海外渡航を実現できる可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、オーストラリアおよびニュージーランドでの史料調査を実施することができず、主として海外旅費として計上していた経費に余剰が生じたため。本研究課題にとって現地での史料調査は不可欠であるため、次年度には本来今年度に予定していた活動の補完を含めて、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのいずれかでの調査を実現できるよう、海外渡航を計画している。
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