最終年度となる今年度は、フィリポス2世の「神格化」に関わる個々の事例を検討し、権力者崇拝の発展におけるフィリポス2世の歴史的意義を明らかにするという研究目的のため、前年度に着手したフィリポス2世に捧げられたとされる「都市祭祀」の事例(アンフィポリス、フィリッポイ、フィリッポポリス、エレソス、エフェソス、アテナイ)についての検討という課題に引き続き取り組んだ。さらに、残る課題である、フィリポス2世自身の「自己神化」の志向を示唆する事例(前336年のアイガイでの祝典行列のエピソードと、フィリポス2世がオリュンピアの神域に建立した円形堂フィリペイオン)の検討を行った。これらの事例からはこの段階でフィリポス2世が自己神化を企てていたことは確認できないが、ギリシアの覇者となった彼は、次なる計画であるペルシア遠征への出発を前にして自身を神のごとき存在として広くギリシア世界に印象づけようとしたのみならず、王家そのものを神的崇拝につながるようなコンテクストに置くことによって、ヘレニズム時代にプトレマイオス朝やセレウコス朝で開花する王朝祭祀への道筋を示したと考えられる。 さらに、これまでの成果を総括したうえで、フィリポス2世はいかなる意味でアレクサンドロスの「神格化」やヘレニズム時代の君主礼拝の「前例」であったのかを検討し、権力者崇拝の発展におけるフィリポス2世とアレクサンドロスのそれぞれの歴史的意義についても考察した。
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