研究期間全体として、新自由主義の起源及び社会主義国家や国際的な社会民主主義の運動と新自由主義との関係について分析を行った。この研究成果の一端は、1970年代から1990年代にかけてのグローバリゼーションと新自由主義の時代を包括的に分析した「グローバリゼーションと新自由主義」という論文として発表した。特に1980年代のニュージーランド、オーストラリアによる「労働」勢力と新自由主義との関係を内発的新自由主義という観点から分析するとともに、1970年代から1980年代の中国、ベトナム、東欧、ソ連の社会主義国家の変動を「市場社会主義」という観点から包括的に取り扱った。 また、1990年代のヨーロッパやラテンアメリカの社会民主主義政党や労働党による「第三の道新自由主義」や「新自由主義の第二波」を新自由主義の新たな形態として分析の対象とした。1990年代半ば以降の新自由主義の展開についてはいまだ包括的な見取図を示していないものの、新自由主義の「左派的起源」の理由については統一的な理解を示すことができた。 歴史的な分析としては、思想と運動の局面、特に初期のウォルター・リップマン・コロキアムやモンペルラン協会について議事録等の分析を行うとともに、各国のシンクタンク及び日本世界経済調査会等についての検討を進めた。これによって、1920年代から1930年代のオーストリアの社会民主主義の思想・運動との相互関連についての理解を深めることができた。特に亡命者については、ロンドン、ニュー・ヨーク、ストックホルム、メキシコ・シティーについての同時代文献や史料集を多数収集することができ、それによって、亡命者とそれぞれの地域の変革構想との関係(イギリス労働党、ニューディール左派、スウェーデン社会民主党、カルデナス政権)を立体的に分析することが可能となった。
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