研究課題/領域番号 |
19K01077
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加納 修 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90376517)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アジール / 中世史 / 紛争解決 / 法制史 |
研究実績の概要 |
国際研究集会に2度出席し、報告を行った。 2021年9月に開催された研究集会では、西洋中世美術史の専門家である安藤さやか氏とともに、図像を含む数少ないカロリング期の法写本であるパリ国立図書館所蔵ラテン写本4787番について英語で発表した。フランク人の法典である『サリカ法典』と『リプアリア法典』、ならびに『アラマン人部族法典』を伝えるこの写本の内容と構成、書体学的特徴などを、他の法写本と比較しながら検討し、この写本を時空間に的確に位置づけるための手がかりをいくつか提示した。前年度より、アジールに関連するカール大帝の書簡を伝える別の法写本(パリ国立図書館所蔵ラテン写本2718番)を検討してきたが、法制度であるアジールが実際のカロリング期の法生活においてどのように運用されていたかを、写本の成立事情や利用の仕方から探ることで、カロリング期におけるアジールの現実にいっそう近づくことができた。 他方で、2022年3月に開催された研究集会では、カロリング期の紛争解決において書簡が果たした役割を、アインハルトの書簡集や書式集から検討し、アジールに関する紛争とそれ以外の紛争とで書簡の使用方法が異なっていたことをフランス語で発表した。本報告では、アジールという制度が実際の紛争解決のおいてどのように機能していたかを具体的に明らかにした。カロリング王国の有力者は、公的な世俗裁判、教会裁判、領主裁判という3つの審級が混在する社会において、教会や修道院に逃げ込んだ犯罪者や奴隷を保護するために、しばしば書簡を用いて紛争の解決を図ったのであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度にはほぼ史料の収集を終え、2020年度には共著者または分担執筆者として3冊の書物においてフランク時代の国家の性格に関する研究成果を発表することができた。2021年度は、論文は発表できなかったが、二度の国際学会でアジール関連の史料について報告し、最終年度にそれらの報告に基づいて、研究成果を論文として執筆する準備が整ったから。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は研究計画の最終年度にあたるため、史料の検討から得られた成果をまとめて学会で報告するとともに複数の論文を執筆する予定である。現時点では、7月初旬に行われる研究集会において日本語で、アジールに関連するカール大帝の書簡を伝えるパリ・ラテン写本2718番について報告することが決定している。 論文としては2本執筆予定である。昨年度より、アジールに関連するアインハルトの書簡を正確に特徴付けるために、アインハルトを差出人とするすべての書簡について多様な角度から分析を行ってきた。書簡の内容に応じてアインハルトが一人称単数を用いるか複数を用いるかを使い分けていたことが明らかになったため、「私」と「われわれ」とのあいだで揺れ動くアインハルトの姿を論じるフランス語論文を執筆している。同じく、「研究実績の概要」で言及した2022年3月の研究集会での報告原稿をもとに、カロリング期の紛争解決においてアジールが果たした役割を、とりわけ書簡および書簡の書式に基づいて論じる。日本語論文として、本研究集会を基盤とする論文集に寄稿することが決まっているので、2022年度中に完成させる予定である。また、検討から得られた成果を部分的にフランス語論文としても執筆し、雑誌に投稿することを目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、とりわけ、国内外への出張と、海外の研究者の招聘が叶わなかったことにある。 次年度の研究費は、引き続き、主として西洋中世初期史に関する文献の入手にあてる。また国内で開催される学会において研究報告を行うため、旅費を使用する。
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