研究課題/領域番号 |
19K01079
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
河合 信晴 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (20720428)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 東ドイツ / 住宅政策 / 都市開発 / 公共圏 / ロストック / 請願 |
研究実績の概要 |
本年度は東ドイツ史における住宅政策や住宅問題に関する先行研究について再確認した。これまでの研究においては、住宅に関する研究は社会政策に関するものと都市計画や建築に関して議論が進んでいる。社会政策についてみると、中央での住宅政策の概要は1980年代まで明らかになっており、その移り変わりについて確認した。都市計画史や建築史では、これまでの議論は広範かつ、それぞれの地域や都市での住宅建設の様相、いかなるアクターが関わったのか、そして地方が中央に対してどれだけの自主性を持ちえたのかにも議論が及んでいることを確認した。ロストックに関してもこの方面ではとりわけ70年代前半までは、歴史的実証研究が進んでいることも確認した。都市インフラの整備に関する不満、居住地域の相違による不公平感、都市整備活動へのボランティア参加といった点で、住民の地方行政や社会主義統一党への態度についても紹介がなされていることついても理解した。先行研究について再確認は現時点ではほぼ完了し、そこから問題設定と仮説の修正も進めることができた。 また2019年度にグライフスバルト州立文書館、ロストック市立文書館で収集した史料について引き続き精査、分析している。また、次回調査にむけた文書館史料の目録の整理についても実施した。今後は一次史料分析にあたっては中央が立てたマスター計画とロストック県ならびに市の住宅設計と街区修繕のコンセプトと具体的な計画との相違点、それに住民の反応を交互に往還しながら検討する必要性を認識している。 2020年度の本研究に関連した業績としては、中央公論新社から『物語 東ドイツの歴史―分断国家の挑戦と挫折』を刊行することができた。この本は東ドイツの通史ではあるが、本研究の成果として1970年代の住宅問題について記述している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年春の新型コロナウイルの全世界的な蔓延は、2020年度の研究遂行に大きな影響をおよばさざるをえなかった。この事態に対応して、オンライン形式の授業を一から準備する必要に迫られて多くの時間を割かねばいけなくなった。それがエフォート率で定めた本研究の研究時間確保を困難にした。そのため、これまでに確保した一次史料分析には多くの時間を割くことができなかった。また、新たに購入予定の図書を選定する時間が限られたために、現在、十分に予定の図書費を消化しているとは言えない。しかし、この状況下においても二次文献の調査については着実に遂行できており、これまでの二次史料検討の結果を5月中に研究会で発表ができる状況である。 また、2020年度では夏と春に予定していたドイツでの史料調査ならびに本格的なアンケート調査についても、海外への渡航が不可能になるなかで断念せざるをえなかった。現在ではドイツの文書館史料へのアクセスが閉ざされており、本来ならばできるはずの一次史料の量的な充足を図る作業はできなかった。また、アンケートを通じた住民の意識調査についても実施は不可能となった。それゆえ一次史料調査においては、現在までかなりの制約を負っている状況である。 ただこの間、オンラインならびにメールのやり取りを通じてドイツの協力を仰いでいる研究者とはコンタクトを取っており、研究遂行についてもアドバイスも受けることができている。 2020年度の研究の進捗状況から見て、一次史料分析ならびにアンケート調査、研究期間の設定については、現状、研究計画の見直しをする必要があると考えるものの、それによって論文執筆が不可能になるほどの問題を抱えているわけではない。それゆえ、本研究が掲げる目標は最低限達成できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究の分析からは、都市計画史や建築史に比べて社会政策としてどのように住民に住宅政策が受け止められていたのかについての視点が弱いことが分かった。また、住民の住宅問題についての認識や行政との協力関係、行政に対する苦情や批判の実態については、指摘はされているものの、詳しい実証分析が未だに必要である。また、体制と住民との関係性についての位置づけについては本研究で明らかにしようとしていることにまで踏み込んだ分析となっていない。 この先行研究の問題点を踏まえて、2019年度に収集した史料を引き続き分析を進め、ロストック市における住宅政策ならびに住宅問題の実態解明に努める。その成果については、本研究を最終論文の形で出版する予定の論集執筆者との共同研究で1度、その後、今年度中に公の研究会ないしは学会で発表することを目標とする。引き続き、新規の先行研究が出版される可能性があるため、必要な書籍を購入して分析するように努める。なお、いままでに明らかになった点については、論文の草稿を執筆できる部分でもあるので、その作業を進める。 新型コロナウイルスが現状では、大掛かりなインタビュー調査についてはあきらめざるをえない。そのため、代替措置として特定人物からの聞き取り調査をオンラインないしは来年以降ドイツへの渡航が可能になったのちに実施する。 引き続き、ドイツの研究者ならびに文書館関係者とは、来年度以降の渡独の可能性を見据えてオンラインやメールを通じて、現地の状況を把握しつ、研究上のアドバイスを求めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの蔓延によって、海外への史料収集のための出張ならびに国内学会、研究会への参加がすべて取りやめになったことにより旅費交通費はまったく消化できなかった。また、図書費等その他の予算についても、コロナ対応のために研究時間を十分に確保することができなかったことから、その消化額が少なくなっている。引き続き、今年度も旅費交通費に関しては、消化することが困難な状況にあると考えられる。この予算はさらに来年度に繰り越す形で利用することを考えている。本年は他大学からの参考資料の取り寄せや物品の購入にかかる費用は、これまでの研究の進展から考えて多くなり、これまでの積み残した予算を利用することになると考えている。
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