最終年度にあたる本年度は、コロナの感染状況が落ち着いたことからロストック市公文書館並びにベルリンの連邦公文書館で一次史料調査を実施した。また、これまでの確認してきた史料状況から先行研究で使われているライプツィヒの状況についても追加で確認するために、当地にある州立公文書館と市立公文書館の史料を収集した。そして、これまでの史料収集の成果を踏まえて、史料分析と本研究の成果を発表するために研究論文の執筆を進めた。研究論文を発表する予定の共著執筆者との打ち合わせをオンラインで行い、2023年度中には原稿を提出できる見込みであることを確認した。これまで2年目、3年目に現地での史料収集が困難であったことに起因した研究の遅れについては最終年度に集中的に史料収集を行うことができたために解消している。 これまでに発表研究論文の第1章として予定している社会主義統一党の住宅政策の全体像、地域での実践の様子については執筆を終えている。また、住民が抱えていた住宅問題の様相については、住民からの請願や当局が執筆した請願分析から、住宅配分の不公平、住宅の修理や近代化のための資材不足、当局の恣意的な対応といった問題点に対する各種の不満の存在を確認した。また住宅苦情の量の推移についても70年代後半から80年代にかけて大きくは変化しないだけでなく、請願の内容において一貫して第一位を占める深刻な問題であり、そのことを当局も問題視していたことを理解できた。本年の具体的な成果として『中央公論』に関連論文を寄稿した。加えて板橋拓己・妹尾哲志編『現代ドイツ政治外交史』に東ドイツに関わる章を執筆した。 4年間の本研究を通して、1970年代以降の東ドイツ社会主義体制下の住宅政策は画一的な住宅提供に問題があった点、その問題に対する人々の積極的な意見表明の在り方から、西側とは異なる「公共圏」の存在を成果として明らかにできた。
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