最終年度である令和5年度には、以下3点の成果があった。 1.研究対象地域であるアドリア海沿岸都市の発掘成果から展開された、考古学研究動向を再度サーベイした。対象地域のコマッキオでは、ガラス工芸の工房跡と作業途中の製造物が確認され、定住地としてのコマッキオが製塩と塩商業だけでなく、手工業の拠点だったことを確認し、学界動向紹介の〈考古アカデミックレポート〉として「初期中世史研究にとってのイタリア考古学の重要性」『月刊考古学ジャーナル7』No.784、2023、pp.38-41で発表した。 2. 2023年発行の『西洋中世研究』第15号に、「パンがないなら……トルタを食べればいいじゃない? それともお粥?:2021年度若手セミナー 頭としたで味わう中世の食文化:レクチャー編」、pp.151-9 を特別寄稿として発表した。中世ヨーロッパの食文化について、2022年レクチャー編(オンライン)、2023年2月に実食体験(対面開催)が行われた際の2回の発表を展開したものである。中世初期からイタリア半島北部で、製塩(海の塩)と塩商業があり、塩は調味料として一般的だったのを前提とした話である。 3.2024年2月、ラヴェンナ市内各地のバシリカ様式の教会モザイク画・初期キリスト教建築群を巡見し、東ローマ帝国と向かいあうラヴェンナ(東西分裂後、一時期は西ローマ帝国首都、その後東ローマ帝国領エザルカートの中心都市)の地理的・政治的・文化的位置づけを確認した。 研究期間全体を通じて実施した研究成果として特に、2022年「小都市の持続可能性 - ポー河デルタ地帯のコマッキオ集落(城戸照子)」『イタリア史のフロンティア』(昭和堂)を発表できた。また、研究期間内に「フランク的世界」の成立を考察する研究会に参加し、本研究で対象としたアドリア海沿岸を逆に「非フランク的世界」と考える枠組みの構想が得られた。
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