研究課題/領域番号 |
19K01084
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
櫻井 文子 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 教授 (60712643)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドイツ / 自然科学結社 / 公共圏 / 明治時代 / 日本 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、19世紀後半の東京・横浜でドイツ系知識人の主体的な知的活動の場として創造された公共圏を、間文化交渉の領域として考察することである。具体的には、彼らの活動拠点となった自然科学結社である東洋文化研究協会に着目し、ヨーロッパ、とりわけドイツと日本の間の間文化交渉を介して新たな科学の実践が作り出される過程を解明する。そして、明治期の東京・横浜で作り出された科学知が、グローバルに張り巡らされた流通と交通のネットワークを通ってヨーロッパの公共圏に環流し、近代科学の多元化に寄与する様相を明らかにする。 本研究では考察を多角的・体系的に進めるために、ドイツ系知識人のコミュニティの性格を規定した、(1) 明治期東京のローカリティと公共圏の構造的分析、(2) 東洋文化研究協会を介した領域横断的知的交流、(3) 公共圏のアクターのプロソポグラフィーの3つの分析視角を年度毎に設定し、それに基づき研究を遂行する。 初年度と昨年度は、分析視角(1) 明治期東京のローカリティと公共圏の構造的分析、(2) 東洋文化研究協会を介した領域横断的知的交流に基づいて研究を進めた。今年度前半に刊行した論文「深淵をのぞく:明治期の浅間山と欧米人登山者」『専修大学人文科学研究所月報』312号は、行った調査から派生的に得られた知見をまとめたものである。 3年目にあたる本年度の目的は、分析視角(3) 公共圏のアクターのプロソポグラフィーの考察を通して、東洋文化研究協会に参画したドイツ系知識人の経歴を総合的に考察することである。具体的には、彼らが明治期東京の公共圏で得た知識や経験が、ドイツ、さらにはヨーロッパの科学の公共圏に継続的に環流し、既存の知識の実践や制度と衝突・葛藤する過程を分析することで、グローバルな知的往還が科学の多元化に寄与する様相を実証的に考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の目的は、明治期の東京・横浜に成立した公共圏に参画した、多彩な科学の担い手の経歴や研究を実証的に検証することで、彼らが明治期東京で得た知識や経験が、ドイツ、さらにはヨーロッパの科学の公共圏にいかに環流し新たな科学知の実践の形成に寄与したのかを明らかにすることである。同協会には、科学者や医師、技術者だけでなく、外交官や軍人、商人など多彩な社会的背景を持つ者が参加した。さらにはドイツ語を話す日本人知識人、とりわけ東京大学に所属するお雇い外国人科学者・医師の教えを受けた日本人研究者もその活動に積極的に関与した。 このように非常に社会的に多様なアクターの研究活動や相互の関係性を明らかにするには、日本、ドイツおよびヨーロッパ各地の図書館や公文書館が所蔵する刊行資料や未刊行の文書の幅広い調査が必須である。しかし本年度は昨年度に引き続き新型コロナウィルス感染症の流行のため、国外での史料調査をまったく行うことができなかった。加えて、国内で大多数の刊行資料を所蔵する大学図書館(東京大学図書館、慶應技術大学図書館等)もまた、学外の利用者には利用できない状態となっていた。そのため申請者は、昨年度に引き続き、相互貸借が可能な資料はILLを利用するとともに、インターネット上のデータベースに収録されている資料の閲覧・調査を進めることで、研究の遅れを最小限にとどめる努力を行った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和4年度は、最終的な成果発表に向けて総合的な考察を行うことが最も重要な目的である。そのためにはまず、新型コロナウィルス感染症の流行により遅れている資料調査を積極的にすすめることで、進捗の遅れを取り戻す必要がある。申請者は令和4年度、研究休暇を利用してイギリスに1年間滞在予定であるため、ドイツおよびヨーロッパ各地での資料調査を行うことが十分にできると見込んでいる。 そこで年度前半から夏季休暇にかけては、ドイツおよびヨーロッパ各地の図書館・文書館を訪問し、所蔵されている刊行資料・未刊行の文書の閲覧調査を進めたい。資料の所蔵状況については予備調査が済んでいるため、現地の図書館・文書館が利用者の受け入れをしている限りは、予定通り調査を行うことができると考えられる。 年度後半からは、地域横断的な視座に基づく、近代ドイツ科学の新たな歴史像を提示するために、滞在先であるケンブリッジ大学科学史科学哲学科に所属する研究者等とも議論を重ね、より普遍性のある理解のモデルを構築したい。同学科は科学史研究の世界的なセンターである上、現在イギリスでは対面での研究活動が再開されているため、関心を共有する研究者との研究交流を積極的に進めることが可能である。その上で、そうした議論から得られた知見を元に国際学会での口頭発表を準備し、そこで得られたフィードバックを元に最終的な研究成果をまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予定していた国外での資料調査を行うことができなかったため、予定していた旅費の支出がなかった。またその一方では、刊行されている書籍や資料の購入を積極的に行ったため、それに関連する支出が予定より増加した。その結果として、上記次年度使用額が発生した。
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