本研究の2023年度は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて2022年度に十分に実施することのできなかったギリシアでの現地調査を、限られた繰越金の範囲内ではあれ実現することが最大の目標であった。 それについては、2023年8月にアテネの在アテネ英国研究所における関連文献・資料の収集およびクレタ島クノソッスの同研究所支部を拠点とした現地遺跡踏査(アフラティ、リュクトス、ドレーロス)とイラクリオン考古学博物館・アイヨスニコラオス考古学博物館での出土品の実見観察によって、限定的ながら必要な情報の渉猟を行うことができた。 とりわけ、アフラティ村のプロフィティス・イリアス遺跡の現地踏査では、ダタラの共同体に関する青銅製ミトラ法碑文や私的奉納銘文の刻まれた武具の推定由来地として、そのアクロポリスと南東斜面の複合施設を実地検分し、金石文の法が社会に現象化する状況を実際の環境空間的なコンテクストに置いて理解することに努めた。 金石文史料に関しては、戦中戦後の『クレタ碑文集成』の後、2016年に刊行をみた『古代クレタ法碑文集』の収録に漏れた公的および私的碑文の調査を、『ギリシア碑文補遺集』の最近刊とクレタ島での考古学発掘調査の近刊報告書類を参照して情報収集に努めた。また、クレタ島外でのクレタ出身者の行動を検索調査し、その素性を探ることを通じて出身ポリスの社会・国家体制の洞察する方法を模索した。 また、ドレーロス遺跡においてもアイヨスアンドレアスの峰と鞍部を実地踏査し、アルカイック期~古典期の非都市型共同体国家の存在状況を金石文の法碑文と照合する作業がようやく可能となった。さらに、リュクトスのアクロポリスと周辺地域の予備調査から、同様な分散型ポリスの類例として研究の対象に加えていく見通しも得られた。
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