研究課題/領域番号 |
19K01089
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
米岡 大輔 中京大学, 国際学部, 准教授 (90736901)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハプスブルク帝国 / バルカン戦争 / ボスニア / 難民 |
研究実績の概要 |
本年度は、ハプスブルク帝国がバルカン戦争時にボスニアに流入した難民にどのような措置をとったのかという課題に取り組んだ。当初の予定では本課題の遂行にあたり、オーストリア国立文書館に赴き、ハプスブルク帝国在外公館の報告書など、バルカン戦争期の外交関連史料を収集・分析する予定であったが、コロナ感染症の急拡大に伴い渡航そのものを断念せざるをえなかった。そこでまず、バルカン戦争期のハプスブルク帝国の外交文書を集成した刊行史料を入手し、ボスニア統治および難民関連の情報を精査することに取り組んだ。そこからは、バルカン同盟諸国との外交上の駆け引きやアルバニアの独立にむけた動きなど戦時における帝国の諸対応が読み取れ、上記の課題に資する基本的な情報を再確認できた一方、戦時のボスニアの内情については新たな史実を十分に集めることはできなかった。次に、こうした刊行史料の精読を踏まえつつ、上記の課題に焦点を絞り、これまで収集してきた未刊行史料の考察を進めた。その結果、以下の2点を新たな史実として確認できた。第一に、ボスニアに流入したトルコ系難民に対しては、人道的理由から住居や生活手段の提供など一定の保護を施していたという事実である。ただしハプスブルク当局にとっては、そもそもボスニアが1908年までオスマン帝国領だったという事実に鑑みて、彼らの永続的あるいは長期的滞在は認め難かったと推定されるが、今後は、その点も含めて、戦争終結時の彼らへの対応に関して考察を進める必要がある。第二に、アルバニア系の難民に関しては、ボスニアの統治当局が、アルバニア人の政治指導者を介して、彼らと会談の場を設けるなど積極的な関係を取り結ぼうとしていた事実が確認された。こうした背景には、帝国領内から、アルバニア独立に向けた動きを画策しようとする帝国の意図が見え隠れするが、今後はその点についてもさらに分析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き本年度もまた、コロナ感染症の拡大に伴い、従来予定していたオーストリア国立文書館での史料調査を断念せざるをえず、新たな史料の収集・分析が滞っているため、やや遅れていると判断した。こうした現状については、本研究課題を2022年度まで延長することにより改善できるよう努めるつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度となる2022年度は、2020年から実施できていない海外での史料調査、とくにボスニアとオーストリアでの国立文書館での未刊行史料の収集・分析に重きをおく予定である。これにより、バルカン戦争時にボスニアに流入したムスリム難民をめぐる新たな事実の発掘をさらに進めたい。ただし、世界各地では現状、コロナ感染症の拡大に伴う海外渡航制限が徐々に緩和されつつあるが、状況によってはここ数年と同様にヨーロッパに渡航できない可能性もあるため、その際は、インターネットを通じて入手可能な刊行史料を駆使することで新たな史実を追求すると同時に、ボスニアやオーストリアの文書館とコンタクトをとり未刊行史料の入手に努めることにする。 なお研究成果に関しては、その一部をオンラインで開催された研究会での口頭発表、依頼原稿や辞書項目の執筆という形で公表したが、最終年度は現在執筆中の論文を学会誌に投稿できるよう準備を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年から世界各地で急速に拡大したコロナ感染症の影響により、本研究課題の遂行に関してはこれまでヨーロッパ現地での史料調査が実施できておらず、その渡航にあてる予定だった費用の一部が、次年度使用額として生じた。それゆえ2022年度は、海外渡航が可能となった場合には、残額を旅費にあてる計画である。また、もし引き続き海外渡航が困難な状況であれば、その使用額を研究遂行に必要となるさまざまな文献史料の収集に活用していきたいと考えている。
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