本研究は、考古発掘調査が地域社会のアイデンティティ形成にどのような変化を及ぼすのかを検証するための方法論を構築することを目指すものである。2019年度の事業開始当初は、東京大学を中心とした調査団がイタリアのソンマ・ヴェスヴィアーナ(以下「ソンマ」)の通称「アウグストゥスの別荘」遺跡で行っている発掘調査を事例の核とし、同調査が地元社会のアイデンティティ形成にどのような影響を与えるかをフィールドワークを通して実証的に検証することを事業の最終目的としていた。しかし、2019年度途中に全世界に広がった新型コロナウイルス感染症のためにイタリア渡航が不可能となり、その後もソンマでフィールドワークが十全に行える見通しが立たないことを考慮し、研究代表者がすでに取得・整理済みのデータから知見をまとめ上げることを本事業の最終目的に据え直した(これに伴い、事業期間を当初予定より一年延ばして2022年度終了とした)。過去のフィールドワークを通して収集したデータ、ならびに新規に入手できた文献や資料群が相当量あったため、これらを新規に分析することによって、考古発掘調査が地域アイデンティティに与える影響を検証する方法論を、ある程度一般化されたものとして示すことができた。これらの研究成果は、単著ならびに共著の論文・論考群として公刊した。また、過去にソンマで実施した社会調査で使用したすべての質問票、ならびに1930年代の「アウグストゥスの別荘」遺跡での発掘調査に関する文書記録をデジタルアーカイブとして整理することもできた。
|