研究課題/領域番号 |
19K01094
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
千葉 豊 京都大学, 文学研究科, 准教授 (00197625)
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研究分担者 |
伊藤 淳史 京都大学, 文学研究科, 助教 (70252400)
冨井 眞 京都大学, 文学研究科, 助教 (00293845)
笹川 尚紀 京都大学, 文学研究科, 助教 (00456807)
内記 理 京都大学, 文学研究科, 助教 (90726233)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 考古学 / 都市近郊地域 / 京都 / 白川道 / 道路遺構 / 尾張藩吉田邸 / 古道 / 歴史像 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、京都と近江を結ぶ主要街道の一つであった白川道とその周辺地域に光をあて、京都近郊地域が白川道という街道とともにどのような変転をとげたのか、その歴史像を復元することである。研究実施計画に掲げた4つの課題に関して以下に掲げる研究を実施した。 (1)考古学データの収集・分析:1980年に調査された京都大学吉田キャンパス本部構内AX28区・SK51より出土した中世遺物の実測作業をおこなった。SK51からは13世紀の膨大な土器・陶磁器が出土しており、大半が未整理のままであった。これらは、白川道北辺に居住した吉田氏に関わるものであり、白川道沿いに展開した貴族の様相を知る上での重要な基礎資料とすることができた。 (2)発掘調査による白川道・尾張藩吉田邸の復元:中世白川道および尾張藩邸の東を画する堀の確認を目的として、発掘調査を実施した。調査地点は本部構内3箇所である。藩邸の堀跡に関しては、それに対比できる可能性のある落ち込みを発見したが、攪乱が激しく確定することはできなかった。中世白川道は本部構内東端で、良好な形で残存していることを確認し、そのルートを確定できた。 (3)文献・古図に基づく白川道の検討:前年度に引き続き、江戸時代に京都の町奉行所によって布達された「触」に出てくる白川道関連史料の収集を継続し終えることができた。「山城国吉田村古図」(京都大学総合博物館蔵)に見える字名・地番・面積・名請人などを釈読した。古図そのものはデジタルトレースして分析のための基礎作業を終えた。前年度調査した「山城國愛宕郡吉田村地内第三髙等中学校豫定敷地實測図」(京都大学文書館蔵)について、この史料のもつ意義を分析した。 (4)文化的景観・文化資源としての白川道の評価:大分県別府市街地に江戸時代からある沿岸古道を踏査し、都市近郊にある文化的資源の活用における面的展開の在り方に関して情報を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に示すように、前年度延期した計画も本年度に実施できたほか、4つの課題に関してほぼ計画通りに進行している。ただし、発掘調査に関しては新たな課題が浮上し、再度調査する必要性が生じた。以上から、「おおむね順調に進展している」と評価する。 (1)考古学データの収集・分析:京都大学構内で発掘調査された道路遺構に関する悉皆調査は前年度で終了したため、今年度は本部構内AX28区・SK51より出土した未整理の中世資料の実測作業に着手した。土器・瓦器・舶載陶磁器など300点以上の実測が終了したが、なお多くの資料が残っている。国内で実施された道路遺構に関する考古学的な発掘調査は、「全国遺跡報告総覧」を用いて2000件以上の基礎データを集めることができた。 (2)発掘調査による白川道・尾張藩吉田邸の復元:前年度に実施したレーダ探査のデータを解析して遺構の存否を検討する研究会を前年度中に予定していたが、新型コロナ感染拡大防止のため延期し、2020年7月に実施した。この結果も踏まえて発掘調査を実施し、尾張藩邸の東堀とみられる落ち込みを発見したが、攪乱に妨げられ確定することはできなかった。 (3)文献・古図に基づく白川道の検討:『京都町触集成』(全16巻)のうち、前年度に11巻分のデータ化を終えていたが、残り5巻に関して白川道関連史料を渉猟しデータ化を終えた。「山城國愛宕郡吉田村地内第三髙等中学校豫定敷地實測図」の分析により、第三高等中学校設置によって廃絶された白川道やそれに接続する南北道路、水路の状況を明らかにし論文として公表した。 (4)文化的景観・文化資源としての白川道の評価:別府市街地の古道の調査により、新旧の道が温泉巡りに組み込まれ、線としてではなく面として展開している様子が明らかになった。文化資源として道を見る際、その道を含む景観とその道に関わる地域的な来歴を視点に入れる重要性を再認識した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究計画最終年度として、以下の計画のもとに研究を推進し、研究成果を報告書としてまとめるとともに、博物館での展示を通じて一般向けにも発信する。 (1)考古学データの収集・分析:概要報告のみにとどまってきた本部構内AX28区・SK51出土資料の実測を継続して報告完了を目指すとともに、当時の調査資料も再精査し、周辺の調査成果とあわせて総合的な考察を加えることで、白川道添いの土地利用と景観がどのように変遷していったかを考古学の成果に基づいて総括する。 (2)発掘調査による白川道・尾張藩吉田邸の復元:前年度の調査で、可能性のある落ち込みを発見しつつも確定することのできなかった尾張藩邸の東を限る堀跡に関する発掘調査を再度実施する。調査は7月を予定しているが、新型コロナの感染状況によっては柔軟に対応したい。また調査予定地は攪乱の多い地点なので、発掘箇所も広めに選定し、成果を導き出したい。 (3)文献・古図に基づく白川道の検討:京都町触に出現する白川道関連史料や幕末の尾張藩吉田邸を描いた「吉田御屋敷惣図」、さらに江戸時代後期の「山城国吉田村古図」の分析を進め、発掘調査の成果との比較検討を実施する。 (4)文化的景観・文化資源としての白川道の評価:現在でも機能している白川道には、人がほとんど歩かなくなり廃道となりつつある箇所(大津市山中町と南滋賀町の間の所謂、志賀越)があるので、この箇所の現況を詳細に記録する。歴史の道として整備されている国内外の事例と比較参照しつつ、大学キャンパス内での道路遺跡、その調査成果の利活用のありかたについても検討を進め、文化的景観・文化資源としての白川道の重要性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた愛知県への史料調査をおこなえなかったことと、発掘調査を短期間に設定せざるを得なかったことによる。いずれも、コロナウイルスの感染拡大にともなうものである。 コロナウイルスの感染拡大予防には万全を期しつつ、今年度の実施課題とともに、上に記した取り組めなかった課題に関しても今年度に実施する予定である。
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備考 |
上記webのトピックスに、発掘調査の概要などを紹介している。
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