本研究は、古代から中世への転換期とみなされている平安時代を中心として、物資流通の実態を解明する点に重点目標を置き、とりわけ考古資料のうちでも須恵器・施釉陶器・中国陶磁などの焼物を中心に基礎研究を深めることを目指した。 まず、重点地域を設定したうえで土器・陶磁器類についての流通様相の解明を目指して、考古学的な資料収集と分析を試みてきた。当初計画では国外については中国などにおいて中国陶磁器にかかわる実見調査を試みる予定ではあったが、初年度に浙江省や河北省での調査を行ったものの、新型コロナウイルスの蔓延に伴い渡航を中止せざるをえなくなったために、この部分の計画を改めて、国内での製品の流通状況の把握とその成果の整理作業に傾注した。 国内でも調査の制約がいまだ継続する部分はあったが、これまでは東北日本を中心とする各地での調査を重ねてきたこともあり、西日本を中心に補足調査を行った。例えば長崎五島列島の事例では、壱岐などと同様に京都周辺などの国産の施釉陶器の流通が認められ、北部九州では中国陶磁が多い中にあっても、別の意味を付与された国産陶器の流通の存在が推定された。 また一方で、同じ島嶼部に関して、昨年に引き続き宗像の沖ノ島に加えて、大島御嶽山遺跡での出土品を確認して、著名な唐三彩や平安時代初めに下る奈良三彩はあるものの、平安前期の緑釉陶器や当該期の青磁や白磁などは確認できないようであった。その一方で瀬戸内でも奈良三彩の多い大飛島では、奈良三彩以外に緑釉陶器や須恵器でも篠窯産の鉢が認められるなど、遺跡の性格差や水運の状況による流通についても見通しが得られた。 以上のような個別の成果に加えて、口頭発表では日本と中国などの出土事例をもとに、生産・流通・消費を含めた検討の一部を盛り込み、篠窯産須恵器などの流通について協力者の支援の下で製品の集成とその検討結果などを取りまとめた。
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