研究課題/領域番号 |
19K01099
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
会田 進 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (40581757)
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研究分担者 |
那須 浩郎 岡山理科大学, 生物地球学部, 准教授 (60390704)
佐々木 由香 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (70642057)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本考古学 / 縄文農耕論 / 土壌フローテーション / 土器種実圧痕レプリカ |
研究実績の概要 |
前回の科研研究により、縄文時代にダイズとアズキの種子サイズが大型化していることが明らかになった。縄文時代のマメの存在は本当に栽培化といえるのか、2019年度は松本市エリ穴遺跡を中心に本研究を進めた。エリ穴遺跡は、縄文時代中期、後期、晩期の各期にわたり集落を形成するため、もし一つの遺跡の中でマメの変化、すなわち、大型化の変化が捉えられると、同じ環境条件の中で起きる事象として、栽培化への大きな傍証となることは必定である。同時に松本市麻神遺跡の土器種実圧痕レプリカ採取と同定、住居址炉跡の埋土223リットルの土壌フローテーションを行い、分析・同定、報告を完了し、大きな成果を得ることができた。 2020年度は、エリアナ遺跡の調査のまとめと並行して、岡谷市上向遺跡の縄文時代中期後半の住居址炉跡から採取した埋土200袋を、乾燥させて土壌フローテーションを終了し、実体顕微鏡を使った炭化物の精査、種実の拾い出しを始めているが、まだ初動段階のため、今のところ成果は出ていない。上向B遺跡は岡谷市教育委員会によって2018年に約2500㎡が発掘されて、縄文時代中期後葉(Ⅱ~Ⅲ期)の住居址8棟や特殊な住居址内埋甕の出土など大きな成果が得られている。今回、5棟の住居址炉の埋土、埋甕内の土全部を岡谷市教育委員会と共同研究として調査を行うことができた。 松本市麻神遺跡のような成果は見られないが、こうした地域間、遺跡間の差は今後の栽培あるいは管理栽培(収穫)など、縄文時代の生業形態、すなわち縄文農耕を考えるうえで重要な課題を提示することとなると捉えている。 なお、近隣地域の関連を知るために信州と関係が深い美濃飛騨高山地域の土器種実圧痕調査を継続する予定であったが、コロナ禍の中で、先方の感染状況や、作業協力者の確保などが困難であったため、残念ながら実地調査を中止し、膨大な上向遺跡の土壌フローテーションに集中した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染が大きな理由である。長野県内は感染者が少ないとはいえ人口の割合から見ると多い状況で、また松本・長野地域に集中する傾向にあり、そのため、作業を行っていた松本市埋蔵文化財調査室への出張を見合わせざるを得なかった。そうこうしている間に相手方の事情により、エリ穴遺跡関係出土品がより遠方の収蔵施設に隔離されるやむを得ない状況が生じ、予定していた種実圧痕の検出された土器の図化が困難になってしまったことは予定外であった。今後、資料化を進めるにあたっては、膨大な収蔵庫の資料の中から探し出す困難な作業を行わなければならず、2021年度中に終わらせることは無理な状況である。 最終年度、成果をまとめるにあたり、図化等の検証できる提示方法について再考しなければならないであろう。
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今後の研究の推進方策 |
縄文時代には、身近にマメ類が存在したことは、縄文土器の胎土そのものに混在することがこれだけ多数の事例として提示できたため、誰の目にも明らかになった。しかしそれが野生のマメの採取なのか、管理栽培(収穫)、あるいは栽培化していたかということは、別の問題である。野生のマメを栽培した証拠が明確ではなく、またその生業過程も明確に説明できていない。しかし、土器底部内面にマメのお焦げ(炭化マメ)が見つかっていることは食していた可能性が強く、また炉の周辺で炭化マメが採取できたことは、調理していたあるいは一歩進んで日常食料として食していたと考えることが可能である。今後、パン状あるいはクッキー状炭化物からエゴマが検出されているように、マメ類が見つかれば確実に食していた証拠になる。また人骨や土器付着のお焦げの脂肪酸分析から、マメ類が出てくれば調理及び食料化は確実になる。 今年度はこれまで蓄積されたデータをもとに、考古学的な検証をするために、生業研究を進めている研究者による本格的議論ができるシンポジウムを行う計画である。そこにおいて3年間のまとめと、今後の研究課題の抽出・提起を行えるように考えている。 科研による研究が終了しても、縄文時代の生業について、野生のマメ類と堅果類の収穫、栽培による原初的農耕であることを明らかにしていきたい。そのために生業研究、特に原初的農耕の生産用具である石器・木製品の使用痕研究、遺跡環境研究(遺物としての大地)を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の状況から、土器種実圧痕レプリカ及び炭化種実の精査・同定を行う調査研究出張を自粛したために生じた。2021年度は前年度できなかった調査研究出張を集中的に実施して、科研調査の成果のデータ化とまとめのシンポジウムを進める。
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