研究課題/領域番号 |
19K01100
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
馬場 匡浩 早稲田大学, 文学学術院, その他(招聘研究員) (00386583)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 古代エジプト / 国家形成 / 権力形成 / 儀礼祭祀 |
研究実績の概要 |
権力形成に関する近年の研究では、儀礼祭祀によるイデオロギー操作がエリートの権力と地位の維持向上において重要とされる。古代エジプトでは、ファラオを析出するに至る国家形成期にこうした権力形成があったと考えられるが、資料不足によりこれまで十分な議論ができていなかった。しかし、文明形成期のヒエラコンポリス遺跡の調査により、エリートの儀礼空間と考えられる大型構造物が磁気探査によって新たに発見され、イデオロギー操作を考古学的に研究しうる資料が得られた。そこで本研究では、これら遺構の発掘調査を継続させ、儀礼行為の具体的内容を明らかにし、権力の維持・強化における儀礼の機能について考察することを目的とする。 3年目となる本年度は、継続してヒエラコンポリス遺跡での発掘調査を予定していたが、昨年度と同様に、新型コロナの影響で実施することができなかった。そこで、権力形成と儀礼祭祀の関係に関する既往研究の収集と2019年度発掘調査の整理・考察を行った。後者に関しては、エリート墓地北端にて白色砂が敷かれた人工的なマウンドが検出されたが、そこから土製人形という特異な遺物が集中して出土した。同様なコンテキストは、近郊のマハスナ遺跡でも確認されており、儀礼祭祀の場とみなされている。加えて、マウンドでは黒頂磨研小型ビーカーと赤色磨研小型ボウルが80%を占める土器集中も検出されたが、同一器形を用いた植物学的分析をスタンフォード大学と共同研究を行い、ビール残滓を検出した。恐らくここでは、人形像とビールを用いた儀礼祭祀が執り行われていたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、1:儀礼行為に関連する遺構の発掘、2:出土する考古遺物・動植物遺存体の分析から遺構の性格・機能を把握、3:権力の維持・強化における儀礼の機能考察、この3つの作業項目を掲げている。本年度は、昨年度に引き続き1の発掘が実施できなかったため、2と3の研究課題に注力した。2の分析では、スタンフォード大学との共同研究の成果がJournal of Anthropological Archaeologyにて出版された。3の権力と儀礼に関する研究は、『岩波講座 世界歴史 第2巻』に国家形成の文脈で論考を執筆した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、ヒエラコンポリス遺跡における儀礼祭祀関連遺構の発掘調査を再開したい。また開催が再々延期された、エジプト国家形成期の国際学会(Egypt at its Origins 7 at Paris)にて、本研究成果の一部を報告する(9月開催)。さらに、最終年度として本研究の成果をまとめ、上記学会のプロシーディングに投稿する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で現地調査が実施できなかったため。次年度の調査費用として使用する予定。
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