研究課題/領域番号 |
19K01103
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研究機関 | (財)古代オリエント博物館 |
研究代表者 |
津村 眞輝子 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 研究員 (60238128)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シリア / 埋葬文化 / ランプ / 残留有機物分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、北シリアの墓から出土したヘレニズム~ビザンツ時代の発掘資料をもとに、ユーフラテス川中流域の埋葬文化の特徴を明らかにし、多種多様な民族、文化が交錯する地における制度や文化の共存、伝播の実態を明らかにしようというものである。対象とする資料は、古代オリエント博物館が1974-80年にシリア現地にて発掘調査をし、シリア政府から研究資料として部分分与された資料である。 初年度は、点在する墓に共通して多く出土するガラス製玉に焦点をあて、基礎ガラスおよび着色剤の蛍光X線分析を実施した。本年度は、盗掘を免れたと推定できるE-2号墓から出土した58点のランプのうち、日本に分与された30点の資料の分類分析を進めた。煤の放射性炭素年代測定では421年-537年(95.4%)という暦年較正結果が出ている。 E-2号墓出土で確認できたランプの火口全点に煤がついていることから、実際に火は灯された。しかし、数点のランプの残留有機物分析を行ったところ、脂肪酸を270℃以上に加熱すると生成することが知られているAPAAは認められなかった。また、脂肪酸が酸化された様子がほとんどみられなかった。すなわち、ランプは長時間利用されず、繰り返し灯されていないことが示された。また、共通に植物の表皮細胞起源と推定されるワックス類が検出された。香りを持つ植物を油に浸した可能性も示唆された。 以上のように、資料が日本に存在している利点を活かして化学分析を行い、ランプの出土状況とともに検討することで、実際にランプがどのように使われたのかについての新知見を得ることができた。分析結果と考察については日本西アジア考古学会にて報告発表した。今後は、ユーフラテス川流域の他の出土例などとの比較もしながら、地域を俯瞰的にみた考察を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料が日本にある利点を生かして、分析を進めている。最終年度は3年間に実施した分析結果を総合して、ユーフラテス川中流域の埋葬文化の特徴を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には土製ランプの分析考察を深める予定である。2年度に実施した土製ランプの残留有機物分析では、油脂の同定に至っていない。また燃焼プロセスの間に同位体の分別が起こっている可能性もあり、動物、植物様々な油の燃焼実験をすることが必要となった。燃焼結果による分析を加えることで、ビザンツ時代のランプが、墓において果たした役割についてを具体的に考察する。 あわせて、初年度からの他の資料の分析・考察をまとめる形で、ユーフラテス川中流域の埋葬文化の特徴を明らかにする予定である。
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