研究課題/領域番号 |
19K01104
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館 |
研究代表者 |
井出 浩正 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 室長 (20434235)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 縄文時代 / 縄文時代中期 / 縄文土器 / 異系統土器 / 容量計測 / 集団間交流 / 型式学 / 社会交流 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の縄文時代における地域間の交流を解明することであり、縄文時代中期(紀元前約3000から2000年)の東日本を主な研究対象とするものである。特に当時の各地域圏にもたらされた他の地域圏からの縄文土器(異系統土器)に注目し、その具体的な製作地域を特定し、地域圏どうしの社会交流の実態を解明することを目的とする。 【具体的内容】 2019年度は、本研究の手法であるA:既刊発掘調査報告書の悉皆調査と東日本の縄文時代中期集落遺跡出土土器データベース化、B:CADを用いた3次元処理とAで集成したデータベースの容量計測、C:民族学的手法を用いた土器の交換および贈与と集団間交流の構造理解とモデル化のうち、主にAとBを行った。また、Aによって得られた知見から、山梨県、群馬県、埼玉県に異系統土器の実見と観察を行った。それらの諸成果として研究論文の執筆、一般聴衆を含む講演会による講演、東京国立博物館において教育普及を目的とする普及活動(ギャラリートーク)などの研究活動を行うことができた。 【意義・重要性】 研究論文では、山梨県北杜市の酒呑場遺跡出土の縄文時代中期の土器を分析し、山梨県、長野県、群馬県にまたぐ地域圏どうしの交流の実態を指摘することができた。特に、人やモノの直接的な往来による交流というよりも、むしろ間接的な情報交流によってもたらされた異系統土器の存在を抽出することができたことは重要であるといえる。一方、講演会や教育普及活動を目的とする普及活動(ギャラリートーク)では、主に一般の聴衆を対象とし、縄文時代の土器を含むさまざまな出土品を通じて、地域圏どうしの社会交流のあり方を分かりやすく説明した。縄文時代が1万年の長期間にわたって存続した背景にこのような持続的な社会交流があることを指摘できた意義は大きいといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究は、A:中期集落遺跡出土土器の集成とデジタルデータ化、B:CADの3次元処理と容量計測、B:資料調査(実見観察)、C:民族学的手法による土器の交換および贈与と集団間交流の調査、の大きく3つの研究スケジュールから構成される。 Aにおいては、研究代表者が所属する東京国立博物館内の資料館において、対象地域の発掘調査報告書等の悉皆調査を行った。2019年度は主に関東地方を対象とし、群馬県、茨城県、栃木県、山梨県、東京都(一部地域)、埼玉県(一部地域)、千葉県(一部地域)、神奈川県(一部地域)、福島県(一部地域)、岐阜県について調査を行った。首都圏を抱える関東地方はこれまでに膨大な行政発掘や学術発掘があり、対象となる文献も膨大な数にのぼる。また、研究上、岐阜県や福島県等、今年度対象外の地域に文献調査が及んだこともあり、次年度以降も関東地方の一部地域に於いて文献調査を継続する必要が生じた。 Bにおいては、Aで得られた知見をもとに、CADを用いた容量計測と、出土品の資料調査を進めている。特に資料調査では、2019年度は7か所で資料調査を計画し、4か所で実施した。これは、施設事情による受け入れ延期や、コロナウイルスの影響による2月、3月に予定していた調査の中止による影響である。 Cにおいては、研究代表者がこれまで複数次調査を重ねてきたパプアニューギニアにおける民族学的調査である。しかし、2019年初頭以来、首都ポートモレスビーおよび調査地域であるミルンベイ州等において、大量の暴徒(脱獄犯)と軍隊との衝突が発生し、著しく治安が悪化したとの情報が現地駐在の外務省職員等から入手された。そのため、現在、当初予定の調査を当面の間中止せざるを得ない状況となっている。さらに2020年2月以降、コロナウイルスの影響で海外渡航が禁止されたこともあり、現時点で当該地域の調査の目途が立たない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究は、A:中期集落遺跡出土土器の集成とデジタルデータ化、B:CADの3次元処理と容量計測、B:資料調査(実見観察)、C:民族学的手法による土器の交換および贈与と集団間交流の調査、の大きく3つの研究スケジュールから構成される。 Aにおいては、引き続き、研究代表者が所属する東京国立博物館内の資料館において、対象地域の発掘調査報告書等の悉皆調査を行う予定である。前年度からの継続分に加え、2019年度に刊行された発掘調査報告書の追加確認、中部地方を対象とする予定である。 Bも同様に、Aで得られた知見をもとに、CADを用いた容量計測と、出土品の資料調査を引き続き進める。前年度に延期された資料調査を中心に、当初予定の調査地域における資料調査を進める予定である。しかしながら、コロナウイルスの影響による資料調査の自粛や遠距離移動の自粛、所蔵先からの受け入れ延期等の可能性が極めて高い状況にあることが予想される。状況を見極めながら柔軟に調整・対応してゆきたいと考える。 一方、Cにおいては、2019年初頭にパプアニューギニア国内で発生している事案によって現地での調査が実質行えない状況にあり、また改善の見通しも立ってない状況にある。さらにコロナウイルスの影響による国外渡航が禁止されているため、当初予定の夏季調査の実施は極めて困難であると言わざるを得ない。そのため、2020年度のCについては、パプアニューギニアおよびオセアニアを対象とする、過去の調査事例や海外文献の読み込み等、現地調査の代替となる研究手法を検討したい。また、研究代表者が過去に参加した調査事例の再検討を通じて、現状の把握と今後の課題を抽出したいと考えている。これらの海外および日本国内の過去の調査事例等の検討を通じて、民族学的知見が間接的に得られるように工夫したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】 当該研究は、A:中期集落遺跡出土土器の集成とデジタルデータ化、B:CADの3次元処理と容量計測、B:資料調査(実見観察)、C:民族学的手法による土器の交換および贈与と集団間交流の調査、の大きく3つの研究スケジュールから構成される。次年度使用額が生じた理由は主にBの国内の資料調査が延期・中止されたことが原因と考えられる。Bの資料調査(実見観察)では、受け入れ側の施設事情(例:所蔵館のリニューアル工事等)による自粛要請を受けて延期した事例や、2020年2月以降のコロナウイルスの影響によって、2月、3月に予定していた調査が急遽中止となった経緯がある。 【使用計画】 使用計画について、Bでは、コロナウイルスの影響を考慮しつつ、状況を見極めながら着実に資料調査を行う予定である。またCにおいて、現状、治安面やコロナウイルスの影響等によって、2020年度の現地調査の目途が立っていない。そのため、パプアニューギニアやオセアニアを対象とする過去の調査事例や海外文献の読み込みや、研究代表者の過去の調査事例の再検討等、現地調査の代替となる研究を計画している。
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