研究課題/領域番号 |
19K01106
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪 |
研究代表者 |
寺井 誠 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪歴史博物館, 係長 (60344371)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 考古学 / タタキ技法 / 当て具 / 有文当て具痕跡 |
研究実績の概要 |
木製当て具の調査では、木目と刻線の関係を詳細に観察した。長原遺跡(大阪市)出土品では年輪に沿って短い直線を刻んで同心円文となり、九大筑紫キャンパス(福岡県春日市)出土品は心持ち材を使いながらも同心円文の刻線が年輪を横断していることを確認した。林堂洞遺跡(韓国慶北慶山市)出土品は、当たり面で年輪の凹凸が露出して同心円文となり、元岡・桑原遺跡群(福岡市)出土品は平行に伸びる木目が当たり面に露出したもので、いずれも刻線はなかった可能性が窺えた。 当て具痕跡について、近畿地方では飛鳥・藤原や平城で飛鳥~平安時代初頭の平行文や矢羽根状文など、同心円文以外の当て具痕跡があることを把握し、他地域からの搬入品と推定した。特に、飛鳥京跡の矢羽根状文の当て具痕跡の壺は、硬質焼成で須恵器と比べ異質なもので、統一新羅からの搬入品の可能性を考えた。また、山陰地方では扇状文や平行文、北陸地方では平行文当て具痕跡が、いずれも奈良~平安時代初頭の須恵器の内面にあることから、統一新羅との関係を検討視野に入れる必要を再確認した。さらに福岡県では奈良時代と推定される須恵器内面に平行文当て具痕跡を確認したが、生産地での有無の確認が課題となった。 韓国慶尚北道・南道では、三国~統一新羅時代の新羅・加耶土器を調査し、同心円文に加え、平行文・格子文など多様な当て具痕跡があり、その多くに木目痕跡があったため、木製当て具の使用を確認できた。さらに、統一新羅の土器内面には矢羽根状文や複数の文様を組み合わせたものなど、日本の須恵器にはないような当て具痕跡を確認した。 以上のように木製当て具と当て具痕跡の調査を併行して行うことにより、当て具痕跡から当て具原体を復元する展望を得た。さらに多様な当て具痕跡の把握が、搬入土器を見出す手掛かりになるとともに、その系譜について統一新羅を含めた広範な検討が必要であり、今後の課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果の公表について、今年度は2つの論考の発表を完了し、すでに脱稿済みの2つの論考が2020年度に刊行を予定している。研究成果の公表は順調に進んでいる。 資料調査について、2019年度当初は北部九州と朝鮮半島の当て具痕跡の把握を目的としていたが、次年度に予定していた山陰・北陸地方の調査が地元の担当者の協力により実施できたことにより、古墳時代後期~平安時代初頭の北陸や西日本の有文当て具の多様性を実物調査にて把握できた点は大きい。当て具痕跡については、近畿地方では同心円文にほぼ限られるが、北部九州では平行文・格子文、奈良~平安時代初頭の山陰地方では平行文・扇状文など、北陸地方では平行文など、さらには朝鮮半島三国時代の新羅・加耶では平行文・格子文・扇状文、統一新羅の慶尚道ではさらに矢羽根状文当て具痕跡が存在するということを把握することができた。この地域性を把握することにより、地域間交流の把握するための故地を知る手がかりを得ることができた。 木製当て具の調査研究についても、日置荘遺跡(堺市)出土の4点をはじめ、近畿や九州の既報告の資料はすべて実物確認することができたことにより、当て具痕跡からどのようにして当て具を復元するかという視点を養うことができた。いくつかの土製当て具の調査を進めることができたことも大きい。なお、現段階で実物確認をしなければならない木製当て具は、愛媛県や三重県の事例を残すのみである。 一方、土器内面の当て具痕跡の調査について、当初予定していた壱岐・対馬、韓国の京畿道・江原道での資料調査は実現できなかったので、今後の課題である。 総合的な研究の達成度を見るなら、2020年度に予定していた調査の一部を2019年度に先行してできたことにより、研究の視野が拡がったことは大きい。2020年度以降については未確認の資料の実物調査を進めながら、さらに研究を進展させたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
近畿地方では引き続き都城遺跡などの出土遺物の調査を継続し、統一新羅を含めた他地域との対比をしながら資料の位置づけを行う。北部九州では6世紀後葉から7世紀前半の平行文当て具痕跡の須恵器が多いことは把握していたが、2019年度の調査で8世紀代の可能性がある須恵器に平行文当て具痕跡を確認したことから、生産遺跡でこの時期の事例がないか精査をしたい。中国地方では邑久窯跡群(岡山県備前市・瀬戸内市)や下坂窯跡群・花原窯跡群(鳥取県八頭町)といった生産遺跡で、平行文や放射状文などの当て具痕跡が報告されており、実物確認を行いたい。 木製当て具については、久米窪田遺跡(愛媛県松山市)の同心円文当て具、伊賀国府跡(三重県上野市)の無文当て具があり、さらに大小谷谷窯跡(愛媛県四国中央市)や美濃須衛窯跡群(岐阜県岐阜市など)、和気白石窯跡(石川県能美市)などでは同心円文を刻んだ土製当て具の事例もある。当て具痕跡と対比するため、これらの当て具の調査を行いたい。 韓国では、2019年度に予定していながら実現しなかった火旺山城(慶南昌寧郡)の木製当て具の調査を行うとともに、京畿道や江原道の三国時代の新羅土器や全羅南道・北道の加耶土器の当て具痕跡に着目した調査を行い、領土拡張とともに土器製作技法も拡がった様相を資料調査を通じて行いたい。加えて、統一新羅の土器の内面観察も継続的に行い、古代の日本列島との共通点・相違点を整理したい。 以上、2020年度も引き続き、当て具痕跡と当て具の調査を併行して行うことによって、痕跡から当て具原体を復元することにつなげたい。さらに、多様な当て具痕跡を調査することにより、朝鮮半島と日本列島の中での地域性の把握に努めたい。 なお、新型コロナウィルス感染症の拡大により、上記の研究計画を変更せざるをえなくなることも十分予想しており、その際は延長も視野に入れた計画の再構築を図りたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が順調に進み、年度途中で2019年度予算額では不足が出ることがわかり、前倒し請求の申請を準備し、提出した。しかし、機関事務の手違いで申請が間に合わず、所属機関内で検討した結果、韓国出張の旅費の約20万円を機関独自の予算で支出することになり、逆に約9万円の残額が生じてしまった。 2020年度はこの残額を基に、研究に必要な備品を購入するなどして、自身の研究環境を整えるのに活用したいと思う。
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