2022年度は1年延長したうえでの最終年度である。大阪府内の数か所に加え、愛媛県、新潟県で資料調査を実施した。木製当て具については、久米窪田Ⅱ遺跡(松山市)、余部日置荘遺跡(堺市)出土資料の実物調査を行い、当たり面への線刻の有無や消耗具合などを確認し、写真記録を行った。大阪府大東市では河内湖北東の遺跡出土の加耶系土器の調査を行い、特に内面に平行文当て具痕跡を残す土器を重点的に調査し、記録した。新潟県では滝寺・大貫古窯跡(上越市)の9世紀第2四半期の須恵器を調査し、格子文や平行文など多様な当て具痕跡を確認することができた。 2023年1月以降は4年間の研究の総括として、科学研究費成果報告書の作成に集中した。報告書では、木製・土製当て具、朝鮮半島の当て具痕跡、6~7世紀の須恵器の当て具痕跡、北部九州の軟質系土器、摂津・河内の加耶系軟質土器、8~9世紀の当て具痕跡、以上6つのテーマで構成されるものである。日本列島の古墳時代から平安時代前半期、朝鮮半島の原三国時代から統一新羅時代の当て具及び当て具痕跡を集成的に検討した。特に、日本列島における異形有文当て具(同心円文以外の当て具)の痕跡については、6世紀後葉~7世紀の北部九州、8世紀後葉~9世紀の畿内以外の地域、特に日本海側で顕著にみられる。前者については北部九州各地域の支配者層が朝鮮半島南部の勢力と主体的な技術交流をした結果と考えたが、後者については同時期の新羅の不安定化によって流民となった新羅人の来航よるものと想定し、地域の主体性だけではなく、外的要因の可能性も検討した。
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