研究課題/領域番号 |
19K01107
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研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
佐藤 亜聖 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (40321947)
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研究分担者 |
先山 徹 兵庫県立大学, 地域資源マネジメント研究科, 客員教授 (20244692)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高野山 / 町石 / 石造物 / 岩石学 / 金石文 |
研究実績の概要 |
本研究は日本中世における石造物の考古学的研究を通じて、中世寺院が持つ技術的求心性を明らかにすることを目的とする。 本研究の研究対象として、第一に13世紀の石造物定型化に大きな役割を果たしたと考えられる高野山を対象とする。高野山には文永2年(1265)~弘安8年(1285)にかけて造立された町石が220本残存する。高野山町石の完成する13世紀第4四半期は畿内における花崗岩製石造物の増加する時期に符合し、また石造物の定型化時期にも相当する。これについては高野山町石造立による各地の石工の硬質石材加工技術と町石に代表される定型石塔形状の習得、町石造立終了による本貫地への帰還が背景にあった可能性を想定しており、その検証とモデル化を目的とする。 本研究では高野山町石の全点実測調査を行い、型式学的検討を通じて石工集団の同定、その系譜を検討する。さらに、帯磁率の検討を基にした岩石学的観点から町石のグルーピングを行い、考古学的検討から導かれた石工集団との相関関係を検証したい。また、銘文の判読を通じて、これら石工集団、石材と願主の関係についても検討を行う。 今年度は研究の二年目として、100町石までの実測調査を完了したが、上半期及び下半期後半が新型コロナ感染症蔓延のため調査できなかった。このため本来7回行う予定の調査が4回になってしまったことは悔やまれる。次年度は慈尊院までの全点実測と報告書作成を目標としている。 今年度の調査の成果として、これまでも部分的な観察から指摘されていた高野山町石が複数の石工集団によって製作されていたことが、客観的データで提示できるようになった。さらに、まだ不明瞭ながら、その製作には複数の基準尺が使用されている可能性が浮かび上がってきている。これら考古学的成果と岩石学的調査の成果についての照合は次年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の調査はコロナによる調査回数の減少によって、当初予定していた基数よりも少なくなってしまったが、調査回数の減少の割には町石の実測基数は多く、調査の効率化が図れていることが明確化している。 実測調査は奥之院について36町石を除く鎌倉時代の町石全点の実測・石材調査・拓本を完了している。慈尊院側については大門から100町石までの鎌倉時代町石の調書作成・実測を完了、石材調査は半数を完了している。ただし銘文図化用の拓本調査は遅れがちで、全面採拓を行わず正面のみの拓本を採取している。ただし、一部の町石については立ち入りが困難な場所に所在するものや、調査が困難な位置にあるものがあり、これについては次年度調査方法の検討を行う予定である。 調査データの整理については年度後半に調書のデータ入力、実測図の整理、Adobeイラストレータによる浄書を行った。また、2月25日には高野町教育委員会担当者を含む関係者とオンライン会議を行い、今年度の成果と課題の共有を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究の最終年度となる。新型コロナウィルス感染症の拡大が予断を許さない状況下にあり、調査の継続が不明瞭ではあるが、順当に行けば次年度は5回の調査を行い、11月末までに残り全点の鎌倉時代町石の調書作成、実測、石材観察を行う予定である。また、石材同定をもとにした採石地資料の調査も開催予定である。 調査成果については8月以降順次データの整理を行い、3月末に報告書を刊行する予定である。また、3月には研究者向け、一般向けの成果報告会をそれぞれ開催予定である。 課題は新型コロナウィルス拡大による調査中止・遅延である。本研究はフィールドワークを柱とするため、調査ができない場合は延長申請を行わざるを得ない。この点は8月ごろを目途に方針を判断する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は、コロナ禍により調査参加者人数が大きく減り、調査回数そのものが減ったことによる旅費の減額、資料整理費の減額、これに伴う消耗品使用量の減額である。 繰り越した金額については次年度の資料整理および報告書作成費に回す予定である。
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