研究課題/領域番号 |
19K01109
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
國木田 大 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (00549561)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 考古学 / 炭素・窒素同位体分析 / 放射性炭素年代測定 / 栽培植物 / C4植物 / ムギ / 土器付着炭化物 |
研究実績の概要 |
本研究は、東日本における弥生農耕文化の食性変遷を、土器付着炭化物の炭素・窒素同位体比、C/N分析を用いた食性分析から解明する。東日本の弥生文化は、自然環境や集団編成の違いに応じて地域ごとに多様化した農耕文化複合であり、その要因として西日本から波及した栽培植物の受容の在り方が大きく関係している。圧痕レプリカ法では、選択的に栽培植物を受容していたことが解明され、東北北部の稲作農耕、中部地方の雑穀農耕の傾向が指摘されている。本研究では、研究課題①「中部地方における雑穀栽培の様相解明」、②「東北地方における稲作受容と雑穀栽培の有無」、③「東日本におけるムギ類の展開」、④「海外や古代との比較検討」の課題を設定している。 令和二年度は、予定通り研究計画に沿って分析を実施した。研究課題①・②・④では、これまで分析したデータを整理し、学会および論文にて発表をおこなった。研究課題③では、茨城県ひたちなか市鷹ノ巣遺跡、半分山遺跡、武田石高遺跡などのイネ・コムギ・オオムギに関して年代測定をおこなった。昨年度に分析を実施した東京都板橋区西台後藤田遺跡と同様に、いくつかのイネ試料は弥生時代の年代であったが、ムギ類はすべて古代以降の年代であった。現状では、弥生時代のムギ類はすべて後世の混入で、武田石高遺跡の古墳時代中期(5世紀代~6世紀前半頃)の年代が最も古い結果となっている。研究課題④では、北海道北見市大島2遺跡の擦文文化期の土器付着炭化物について分析をおこなった。大島2遺跡で煮炊きされた内容物は、主に海生生物起源と考えられ、C3植物・草食動物の影響はほとんど確認できなかった。炭素・窒素同位体比、C/N比の分布傾向から、C4植物が混入している可能性も考えられるが、今後、残存脂質分析などを併用して議論をおこなう必要がある。海外の試料に関しては、他の研究プロジェクトと連携して分析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和二年度は、研究課題③「東日本におけるムギ類の展開」、研究課題④「海外や古代との比較検討」に対して十分な成果を得ることができた。 学会発表では、第37回日本文化財科学会で発表をおこなった。同学会では、「関東地方における弥生時代の穀類利用の年代研究」という内容で、研究課題③における成果を公表した。研究論文としては、同じく研究課題③に関連して実施してきた分析結果を、「縄文時代中期の遺構から出土した炭化米とオオムギの分析-長野県中野市千田遺跡の試料をめぐって-」として、長野県考古学会誌に公表した。最近の研究では、弥生時代の畑作物として評価されてきたムギ類は、レプリカ法による土器種実圧痕として確認された事例は皆無であり、本研究でも、弥生時代とされたムギ類(炭化種実)が後世の混入と判明している。これらの研究成果は、従来の弥生時代の農耕文化を見直すうえで、非常に注目される。 研究課題④として、比較研究で進めているロシア極東地域やウクライナなどの分析結果を、以前のデータも含めて整理し、論文にて報告をおこなった。ロシア極東地域では、東シベリア地域のクラスナヤ・ゴルカ遺跡、アムール中流域のノボペトロフカⅢ遺跡、ビジャン4遺跡、ルチェイキ1遺跡、アムール下流域のダリジャ2遺跡などの研究成果を公表した。特に、ルチェイキ1遺跡は年代測定の結果、古金属器時代の最初期に位置づけられることが判明し、大陸側における農耕文化の流入を考えるうえで重要な遺跡になる。 令和三年度も研究計画に沿って分析を実施する予定である。研究計画の最終年度になるため、追加分析を速やかに実施し、その成果に関しても年度内に論文として投稿する予定である。学会では、第38回日本文化財科学会などでの発表を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、三つの方策に重点を置き進める予定である。①「研究実施の環境整備」、②「別プロジェクトとの連携」、③「研究ビジョンの明確化」である。 ①「研究実施の環境整備」では、令和二年四月から研究代表者の所属が変更になったことを受けて、分析環境の整備を徐々におこなってきた。最終年度も引き続き環境整備につとめる予定である。ただし、実際の分析に関しては、研究初年度~昨年度の分析データとの比較もあるため、引き続き東京大学総合研究博物館タンデム加速器分析室との共同利用にて研究を遂行する。この共同利用は、研究開始当初から継続している。同施設では、分析環境が充実しており、研究の効率化を図る上で非常に重要である。また、幅広く共同利用が推進され、ユーザー間の情報交換等が活発に行われ、最新の研究や分析装置にもふれることができる。 ②「別プロジェクトとの連携」では、特に海外調査の効率化を図る上で重要になる。海外の共同研究は、個人での活動では限界があるため、研究協力者と相談しながら研究を進めることになる。また、発掘調査などで試料を得る場合は、別プロジェクトと連携した方が、多くのデータを得ることができ、研究を進展させることができる。令和二年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で海外調査が実施されなかったため、今年度は令和元年度以前に採取した試料などを中心に分析を進める予定である。 ③「研究ビジョンの明確化」は、研究当初の計画通り、各年度の研究課題や対象地域を明確にし、研究を遂行する。また、今後の研究の発展に繋げるため、本研究と関連する分野の情報に関して、積極的に情報取集を実施したい。 三つの推進方策を順守することにより、明瞭な研究成果を得る。課題ごとに研究計画や成果を明確にし、学会発表や論文投稿につなげていく。
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