本研究は、東日本における弥生農耕文化の食性変遷を、土器付着炭化物の炭素・窒素同位体比、C/N分析を用いた食性分析から解明する。東日本の弥生文化は、自然環境や集団編成の違いに応じて地域ごとに多様化した農耕文化複合であり、その要因として西日本から波及した栽培植物の受容の在り方が大きく関係している。圧痕レプリカ法では、選択的に栽培植物を受容していたことが解明され、東北北部の稲作農耕、中部地方の雑穀農耕の傾向が指摘されている。本研究では、研究課題①「中部地方における雑穀栽培の様相解明」、②「東北地方における稲作受容と雑穀栽培の有無」、③「東日本におけるムギ類の展開」、④「海外や古代との比較検討」の課題を設定している。 令和三年度は、予定通り研究計画に沿って分析を実施した。研究課題①では、これまでデータを蓄積してきた中部地方の雑穀利用の状況と比較検討するため、奈良県田原本町唐古・鍵遺跡の分析を実施した。研究課題②では、他の研究プロジェクトと連携して、秋田県湯沢市鐙田遺跡の縄文時代晩期後半のデータを検討した。研究課題③では、昨年度に引き続き、茨城県ひたちなか市の資料の検討をおこない、学会発表した。また、東北地方の続縄文文化および古墳時代中・後期にも焦点を当て、岩手県滝沢市大石渡Ⅲ・Ⅴ遺跡、仏沢Ⅲ遺跡、岩手県軽米町大日向Ⅱ遺跡の分析をおこなった。これらの続縄文文化期の試料は、大部分がC3植物・陸上動物の領域であり、大石渡遺跡の1点のみが海生生物起源であった。一般的に、北海道を起源とする続縄文文化集団は、サケ・マス類を中心とした海生生物の利用が主であると想像されたが、今回の分析では、むしろ在地の古墳時代中・後期と類似した傾向であり、生業選択の観点から非常に興味深い結果である。研究課題④では、他の研究プロジェクトと連携して、ロシア極東地域や北海道の試料について分析を実施した。
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