研究課題/領域番号 |
19K01110
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
設楽 博己 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (70206093)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 土製耳飾り / 縄文時代後・晩期 / 上越地方 / 甲斐地方 / 上野地方 / 分類 / 象徴性 |
研究実績の概要 |
縄文時代後・晩期の土製耳飾りについて、今年度は以下の資料調査をおこなった。①新潟県上越市籠峰遺跡、②新潟県十日町市樽沢開田遺跡、③山梨県北斗市金生遺跡、④山梨県北杜市石堂B遺跡、⑤群馬県東吾妻町唐堀遺跡である。いずれも100個以上と多量の耳飾りを出土する遺跡であり、上越、甲斐、上野地方という土製耳飾り主要分布圏の北半の遺跡を対象にして、その特性をさぐった。調査方法としては、形態的・文様的な視点からの分類に即して1点ずつ分類し、記載した。また、全点写真撮影を行うことを目指したが、①・③・⑤は記載とも途中までであり、来年度に持ち越した。分類は主に断面の形態によるものであり、それを主軸に点数を数えて、文様を加味して分類して、どのような傾向があるか考察の基礎データとした。撮影した写真は、すべてパソコンに入力して、整理保管した。現在までに判明した傾向性としては、上越地方に特徴的な耳飾りが抽出できたことである。それは断面の上端と下端が幅広く仕上げられて、上端面に沈線と区画列点を施すものである。それは甲斐地方にまで広がりをみせるが、上野地方にはあまり進出していないことも確認された。時期はおそらく縄文時代後期後半であるが、体系的な編年を組んでいくことによって、検証していきたい。唐堀遺跡のブリッジのついた耳飾りの中に、同遺跡の水さらし場遺構から出土したトーテムポール状の木柱に施された彫刻ときわめてよく似た装飾を施したものを確認した。木柱というシンボリックなものとの共通性は、耳飾りの性格を考えるうえで重要であり、木柱の14C年代測定結果が縄文時代後期後半に特定できたことから耳飾りの実年代が推定できた点も意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ流行のなか、非常事態宣言が解除された期間を狙って資料調査が行えたのは調査研究の進展にとって成果であった。とくに耳飾りが多量に出土する一角である上越・甲斐・上野地方の調査に出向くことができたのは、近接した地域間の耳飾りの様相を比較するうえで一定の成果を収めた。しかし、新型コロナは繰り返し蔓延するために、さらに地域を広げて調査することはできず、埼玉県域や栃木県域など、主要分布圏にまで調査を及ぼすことができなかった。また、パソコンに画像を入力・保管したが、分類整理はまだ行えていない。既存の報告書により埼玉県域のデータを補助業務で作成してあるが、それ以外はあまり進んでいないので、この点も含めて(3)の自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
補助金は来年度に繰り越したので、上記①・③・⑤遺跡のデータを収集し、完了させたい。埼玉県域と栃木県域の資料調査をおこなう予定である。また、千葉県域は地元でもあるので比較的調査が容易だと思われるので、計画を立てる予定である。パソコンに入力したデータの分類をおこない、画像上で分析をおこなう。また、報告書のデータも埼玉県域以外を収集し、パソコン入力を行う。これらを12月までに終了させて、残る時間でまとめることにする。分析の方法は、分類基準を徹底し、収集したデータをそれに基づいて分類整理し、型式学的な検討を行って、地域ごとに編年を完成させることを目指す。さらにデータの統計的な処理や分類ごとの関係性を解析して、分布論的傾向を抽出し、編年網を構築することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナにより資料調査に支障をきたしたため。次年度は、栃木県、埼玉県、千葉県の資料調査をおこなう予定。
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