本年度は、群馬県と長野県を中心に、縄文時代後・晩期の土製耳飾りを多量に出土した遺跡を選定して、出土土製耳飾りの資料収集をおこなった。群馬県では東吾妻町唐堀遺跡から出土した土製耳飾りおよそ500点を実見し、すべて写真撮影をおこなうと同時に観察を行い、その特徴の把握につとめた。これらを類型化して、いくつかのグループに分け、後期後葉から晩期前半に及ぶことを推測した。この遺跡からはトチノキの実を中心にした水さらし場遺構が出土しており、そこから彫刻を施したトーテムポール状の木柱が出土している。その彫刻の文様がブリッジをもった環状の土製耳飾りの彫刻文様とまったく同じであることを確認した。水さらし場遺構のトチノキの実のAMS炭素14年代はおよそcal3300BPであるので縄文時代後期終末であり、この土製耳飾りの文様類型の年代を確定することができた。また、榛東村耳飾り館にて茅野遺跡出土土製耳飾りを実見し、類型化をはかるとともに唐堀遺跡の耳飾りと比較してその特徴を見出した。長野県では長野市宮崎遺跡の土製耳飾りを実見した。この遺跡からは大宮台地に特徴的な透かし彫りのある耳飾りが出土しているが、宮崎遺跡出土のこの類型の耳飾りには、大宮台地から持ち込まれたと思われる資料と在地で製作されたと思われる資料が併存していて、それぞれの特徴について把握することができた。研究全期間を通じて、長野県域、山梨県域、群馬県域、埼玉県域の土製耳飾りの代表的な資料を熟覧・分類することができ、基礎的なデータを積み上げることができた。栃木県域や千葉県域には手をのばすことができず、今後の課題として残った。
|