研究課題/領域番号 |
19K01111
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小高 敬寛 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任准教授 (70350379)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メソポタミア / 肥沃な三日月地帯 / 新石器時代 / 社会再編 / 土器 |
研究実績の概要 |
1956~66年にイラク中~北部で表面採集され、現在は東京大学総合研究博物館に所蔵されている、テル・ハッスーナ、テル・アル=ハン、ヤリム・テペ、サマッラ、ジャルモ、ギルド・アリ・アガの各遺跡における新石器時代の土器資料について、調査を実施した。土器片の接合や分類といった基本的な整理作業を行なった後、 実測、写真撮影、属性観察等、考古学的なドキュメンテーションを実施し、記録を蓄積した。更に、これらの記録を、効果的な情報発信と幅広い応用に備えてデジタル化した。また、特にテル・ハッスーナ遺跡の資料は、比較的数が多く、充実した属性情報を取得できたため、型式学的方法に即して基礎的な分析を行なった。 一方で、研究計画の開始前からの継続的な調査ではあるが、イラク・クルディスタン自治区スレイマニヤ県シャフリゾール平原に所在するシャイフ・マリフ遺跡において2012年に表面採集された新石器時代の土器資料について、保管する現地スレーマニ文化財局に滞在しつつ同様の調査を行なった。 テル・ハッスーナ遺跡およびシャイフ・マリフ遺跡の資料に関する調査成果は、雑誌論文や学会発表にて2019年度内に報告することができた。また、これら2遺跡の資料調査成果と、本研究の開始に先行して実施していた、東京大学総合研究博物館が所蔵するイラク北部マタッラ遺跡採集土器資料の調査成果とを相互に比較することにより、型式学的方法に即して物質文化の時空間的な枠組みを再検討する端緒にまで達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な調査対象である2機関の所蔵資料のうち、東京大学総合研究博物館所蔵資料については2019年度内に考古学的なドキュメンテーションをおおむね完了することができ、その調査記録類のデジタル情報化等、整理作業も大半を終えるに至った。今後、考古科学的分析や三次元計測に係る補足的な追加調査は見込まれるが、基本的な作業プロセスの進展は当初の計画以上であった。 一方、スレーマニ文化財局所蔵資料については、シャイフ・マリフ遺跡採集資料を綿密に調査し、同じく十全なドキュメンテーションおよび整理作業を行なうことができた。ただ、2019年9月、新たにシャフリゾール平原内のシャカル・テペ遺跡で良好な新石器時代文化層が発掘されたため、本研究に大きく寄与すると考え、2020年2月上旬にその出土土器資料の調査を計画した。ところが、国際情勢の変化ならびに新型コロナウイルス感染症の影響により、2019年度内の調査は断念せざるを得ない状況に追い込まれた。したがって、この部分では作業が先送りになってしまった感が否めない。 以上の理由から、現在までのところ、本研究はおおむね順調に進展しているとの評価が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象資料の考古学的ドキュメンテーションについては、東京大学総合研究博物館所蔵資料に関して基本的なプロセスを終えたため、今後はスレーマニ文化財局に保管されている資料、特にシャカル・テペ遺跡出土土器資料に焦点を当てて推進する。当初は、スレーマニ文化財局所蔵資料のうち、シャフリゾール平原内にある他の複数の遺跡で採集された資料を調査対象として考えていたが、それらよりも圧倒的に数量が多いうえ、発掘による付帯情報を伴うことから、遥かに確度の高い研究成果を期待できる。 但し、昨今のコロナウイルス感染症対策等の事情を考慮すると、現地への渡航の可否は先行き不透明と言わざるを得ない。渡航できない場合、物質文化の時空間的な枠組みを再考察するにあたって、これまでに整理してきた東京大学総合研究博物館所蔵資料、およびシャイフ・マリフ遺跡採集資料の調査データを用いることになる。ただ、前者については引き続きアクセス可能であるため、資料から更なる多角的な情報を引き出すべく、考古科学的な分析手法を検討し、実施する。具体的には、複数の遺跡から採集された土器の薄片を作成し、光学(実体および偏光)顕微鏡観察による胎土分析を行ない、含有鉱物の異同について調査することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月上旬にスレーマニ文化財局での土器資料調査を予定していたが、米国―イラン間の関係悪化の影響により、日本国外務省からイラク全土への渡航中止勧告が発出されたため、調査をとりやめた。その後、勧告は解除されたが、今度は新型コロナウイルス感染症の影響でイラク側が日本からの入国を制限したため、年度内には延期しての実施がかなわなかった。次年度使用額は本来、当該の出張旅費および必要資材の購入等に支出する予定であったため、2020年度に状況が整い次第、調査を実施して使用する。他、2020年度分として請求した助成金は当初の予定通り使用し、主に考古科学的分析費用や資料整理作業補助の謝金に充てる。
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