研究課題/領域番号 |
19K01111
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小高 敬寛 金沢大学, GS教育系, 准教授 (70350379)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メソポタミア / 肥沃な三日月地帯 / 新石器時代 / 社会再編 / 土器 |
研究実績の概要 |
2021年度はスレーマニ文化財局に保管されている資料、特にシャカル・テペ遺跡出土土器資料に焦点を当てて考古学的ドキュメンテーションを進め、その成果に基づく研究を実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により現地へは渡航できない状況が続いてしまい、方針を大きく転換せざるを得なかった。 そこで、かつて再発掘調査を実施したテル・ベグム遺跡について、出土した後期新石器時代土器資料のデータを再検討し、後期新石器時代末におけるイラク・クルディスタン自治区東部の地域性について評価を試みた。型式学的な分析から、北西方の北メソポタミア地方と東方のイラン・ザグロス山間地方のそれぞれにみられる諸特徴を確認し、当時の地域間関係の複雑性を提示することができた。 また、テル・ベグム遺跡の出土土器資料だけでなく、前年度までに研究してきたシャイフ・マリフ遺跡の採集土器資料、そして発掘調査時のシャカル・テペ遺跡出土土器資料に関する所見を統合するとともに、利用可能な放射性炭素年代にも基づいて、これまで明らかにされていなかった前6400年頃から前5300年頃までにおよぶ、イラク・クルディスタン自治区東部シャフリゾール平原における土器編年を暫定的に構築した。 以上の2つは、長い戦禍による空白が生じてしまったイラク北部、ひいては北メソポタミア地方の先史考古学において、研究の基盤を今日的に更新する成果といえる。これらは国際会議での報告や英語論文の形にまとめ、学界への発信に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主な調査対象である2機関の所蔵資料のうち、東京大学総合研究博物館所蔵資料については調査を終えている。一方で、スレーマニ文化財局所蔵資料については、2019年度にシャイフ・マリフ遺跡採集資料を綿密に調査したものの、2019年9月のシャカル・テペ遺跡の発掘調査によって良好な新石器時代文化層から出土した土器資料の調査は、新型コロナウイルス感染症の影響により2021年度も引き続き現地への渡航がかなわず、実施できないままに残っている。 この制約から、既存の調査済み資料の再検討から研究成果を生み出すという方策をとらざるを得なかった。本来の計画通り、順調に研究が進展というわけではなく、実際に期間延長を申請するに至った。 以上の理由から、本研究の進捗はやや遅れているとの評価が妥当と考える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は海外出張を伴う調査ができず、2021年度の初めに掲げた方策を実行できなかったが、今後は可能になる見通しが高い。よって、基本的にはその方策を承継する。 研究対象資料の考古学的ドキュメンテーションについては、東京大学総合研究博物館所蔵資料に関して作業を終えているため、スレーマニ文化財局に保管されている資料、特にシャカル・テペ遺跡出土土器資料に焦点を当てて推進する。当該資料は数量が多いうえに、発掘調査による付帯情報を伴うことから、確度の高い研究成果を期待できる。また、可能であれば、シャフリゾール平原内にある他の遺跡で採集された資料も対象に加えて、更なる多角的な情報を引き出すべく、考古科学的な分析手法を検討し、実施する。具体的には、複数の遺跡から採集された土器の薄片を作成し、光学(実体および偏光)顕微鏡観察による胎土分析を行ない、含有鉱物の異同について調査することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、海外渡航を伴う資料調査が実施できなかったため、旅費の支出がなかった。また、その調査成果の整理等に係る人件費・謝金、分析等に係るその他経費の支出も滞った。 次年度は海外での資料調査を実施し、これらの経費を支出する計画である。
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