研究課題/領域番号 |
19K01112
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
山岡 拓也 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (30514608)
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研究分担者 |
高倉 純 北海道大学, 埋蔵文化財調査センター, 助教 (30344534)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本列島 / 後期旧石器時代前半期前葉 / 台形様石器 / 投射・刺突実験 / 欠損痕跡の形態分析 / 欠損痕跡のフラクチャー・ウィング分析 / 遠隔射撃 |
研究実績の概要 |
投槍器や弓矢などを使用した遠隔射撃による狩猟は、現生人類特有の行動として想定されており、その証拠をどのように見出すのか、世界各地で研究が継続されている。その研究課題に貢献するため、本研究では、日本列島における現生人類の出現期である後期旧石器時代前半期前葉(およそ3.8~3.5万年前)の代表的な石製狩猟具である台形様石器を取り上げ、台形様石器が装着された狩猟具の使用方法について検討することを目的としている。投射・刺突実験から得られた実験資料と遺跡出土資料を対象として、欠損痕跡の形態と欠損面のフラクチャー・ウィング(欠損面の形成に関わるエネルギー負荷の指標となる)を共に分析することで、その目的を達成する。すでに実施した153点分の投射・刺突実験資料(複製台形様石器)の欠損痕跡の形態分析と欠損面のフラクチャー・ウィング分析を進めている。去年度までに実験資料と遺跡出土資料のフラクチャー・ウィング分析については見通しが得られ、その成果について国際学会で報告されていた。 2020年度も投射・刺突実験資料(複製台形様石器)の欠損痕跡の形態分析と欠損面のフラクチャー・ウィング分析を継続した。フラクチャー・ウィング分析の前提となる黒曜石の物性値測定を応用地質株式会社に依頼し、投射・刺突実験で使用した北海道白滝産の黒曜石と、遺跡出土資料で分析対象としている長野県和田峠産、東京都神津島産の黒曜石の間で大きな差がないことを確認した。フラクチャー・ウィング分析からも、遠隔射撃を行っていた証拠が得られる見通しが得られたので、論文の執筆を進めている。また、所属している学会で、この研究と関わるテーマのシンポジウム(第35回考古学研究会東海例会)を企画し2021年2月に開催した。その中で、本研究に関わる研究成果について報告するとともに、新たな課題や今後の研究の展開について議論が行われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度にも、すでに実施した153点分の投射・刺突実験資料(複製台形様石器)の欠損痕跡の形態分析と欠損面のフラクチャー・ウィング分析を継続して実施することにしていた。具体的には、欠損痕跡の形態(写真・実測図)とフラクチャー・ウィング(金属顕微鏡写真)の亀裂速度のデータを整理し、使用方法(突き・手投げ・投槍器・弓矢)+柄の重さ、着柄方法、衝突対象物(ターゲット<骨+肉+毛皮>・木製ボード・コンクリートブロック)の3つの項目ごとに比較し、それぞれの項目内での出現パターンを明らかにすることを意図し、それに基づいて使用方法に関わる診断的基準を明らかにするということを意図している。 実験資料と遺跡出土資料の欠損痕跡のフラクチャー・ウィング分析に関しては、予定通り進んでおり、分析は2020年度中に終了した。検討結果の見通しも得られたので、論文の執筆を始めている。遺跡出土資料の欠損痕跡の形態分析はすでに行っているが、実験資料の欠損痕跡の形態分析については現在も分析を進めている。今後も実験資料の分析とデータ整理を進め、フラクチャー・ウィング分析に関わる論文の準備が終わってから、欠損痕跡の形態分析の結果も踏まえて全体をまとめる論文を執筆する予定である。このようにすべての分析が終わっているわけではないために、やや遅れている部分はあるものの、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
実験資料の欠損痕跡の形態分析とデータ整理についてはまだ終了していないので、残り1年間の研究期間のうちの早い段階で作業を進めて終わらせる予定である。今年度中に欠損痕跡のフラクチャー・ウィング分析の論文と欠損痕跡の形態分析とフラクチャー・ウィング分析の研究成果を統合した論文を執筆して成果を公表する。今のところ追加の実験を行う必要はないと考えているが、論文などを執筆する中で新たな課題が見つかり、実験を行う必要が生じた場合は、実験を計画して実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、本研究に関わる国内出張と国外出張を行うことが全くできなかった。そのため次年度使用額が生じた。次年度に研究の打ち合わせや資料の検討と研究成果の公表に関わる国内出張を行うとともに、研究成果の公表に関わる海外出張も行う予定である。今年度行えなかった分の出張も行うために、次年度使用分から支出しようと計画している。また、資料分析がやや遅れているため、謝金についてもこれを充当し、分析を進めようと計画している。
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