研究課題/領域番号 |
19K01118
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中村 大 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 助教 (50296787)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 縄文時代 / 東北北部 / 人口推定 / 発見率 / 遺跡数 / 人口の過少推定問題 / 儀礼(祭祀・墓制) / 多様度 |
研究実績の概要 |
本年度は、縄文時代人口の推定研究について住居跡発見率の修正と地域差補正を行うとともに、住居跡数と土器型式別遺跡数を併用した新たな推定を試みた。また、人口の波(大きな増減)と儀礼(祭祀・墓制)の変化の連動性が高いことを明らかにできた。 住居跡発見率については計算過程を次のように修正した。まず、10世紀前半の『倭名類聚抄』に記載された田地面積にもとづく年間推定人口32万人から、1軒平均4人居住として年間住居総数を8万軒と推定する。次に、同時期の発見住居数4808軒(50年分)から平均建て替え回数4回とみなして年間軒数を1202軒とし、年間推定総数で除し発見率を1.5%と推定した。さらに、発掘調査面積の大小によるバイアスを考慮し、発見率を調査面積の大きい八戸・二戸や津軽・青森地域で2%、米代・森吉地域と下北・上北地域で1%とした。 この新たな発見率を用い、秋田県の米代・森吉地域を対象に住居跡数にもとづく人口推定を行った。次に、住居跡数と遺跡数の変動パターンがよく一致する5700-3300calBPを対象に、住居跡数による推定人口を同時期の遺跡数で除しその中央値121.3人を地域における1遺跡あたり人口係数とした。そして、各時期の遺跡数にそれを乗じ人口を算出した。これにより安定性の高い遺跡数パターンにもとづく人口推定が可能となり、課題であった住居跡の発見数が偶々少ないために生じる「人口の過少推定問題」を回避できた。 新たな人口推定では、縄文前期から晩期(7000-2300calBP)にかけ人口の波は7回生じており、増加期の年間人口は約3000-4400人、人口密度は1平方キロメートル当たり約0.6-1.0人と推定される。また、人口の波に伴い儀礼(祭祀・墓制)が活発化し内容が多様化する場合があり、儀礼の多様度を定量的に評価できる指標の開発が必要であることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主要な目的である「発見率を用いた住居総数推定に基づく人口推計」については、計算方法の改良研究の過程で、令和元年度に「人口の過少推定問題の緩和」と「時系列データ作成の必要性」の2つの課題が明らかになった。そして、前者に対処するため令和3年度に実施予定であった遺跡数変動パターンの分析を繰り上げて実施したところ、遺跡数データは住居跡数よりも発見の偶然性バイアスの影響を受けず変動パターンの安定性がよいという新たな成果を得ることができた。その一方で、1遺跡あたりの居住人数や総遺跡数の推定は困難で、ある程度発見事例が蓄積されている場合は計算方法の整備が進んでいる住居跡数にもとづく人口推定のほうが適用しやすいこともわかった。つまり、計算根拠が明確な住居跡数にもとづく推定と、変動パターンの安定性がよく「人口の過少推定問題」を回避可能な遺跡数にもとづく試算の両者を融合した人口推定手法の確立が必要である。そこで、研究実績の概要で述べたように、本年度の研究で住居跡数と遺跡数を併用した人口推定方法を提案した。また、時系列データの作成については、東北北部とともに文化的な関係性の強い北海道の土器編年および暦年代を整備し、縄文早期から晩期(10500-2300calBP)まで100年幅の時間ブロックに対応する土器型式の確率分布データの作成を進めることができた。これらについては、本研究の進捗における大きな進展と評価できる。 しかしながら、分析手法の改良に重点を置いたこと、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い予定していたデータ収集調査を中止せざるを得なかったことにより、住居跡数と土器型式別遺跡数データの整備作業には遅れが生じている。以上から、現在までの研究の進捗状況についてこの判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
実施を予定していた3種類の人口推定方法のうち、住居跡数の発見率にもとづく推定と遺跡数にもとづく推定の2つについては、両者を融合した推定手法の開発というかたちで成果を得ることができた。そこで、令和3年度は3つめの遺跡面積と発掘調査された面積の比を用いた住居跡総数の推定にもとづく人口推定を行う予定である。これにより、調査面積を参考にして住居跡の未発見数を推定しこれまでに算出した住居跡総数の補正を試みる。間接的な人口推計研究においては、複数のデータや計算方法による比較をつうじて妥当な推定値の範囲を探索していくことが必要不可欠である。 それとともに、遅れている住居跡数と土器型式別遺跡数データの整備作業を進める。分析手法に問題を抱えたままデータ収集を進めるよりも、計算式の問題解決を優先しそれに伴い精度や種類を逐次見直しつつデータ整備を行うべきと判断し、研究計画の調整を行っている。本年度までの推定手法の検討では、モンテカルロ法などのシミュレーション分析の導入や住居面積データが必要となる可能性が出てきている。令和3年度の研究ではこれらの点についてもテスト分析や試験的なデータ作成を行う必要がある。 また、令和4年度に行う人口現象と儀礼(祭祀・墓制)の変化との関連性の検討については、予定を繰り上げ令和2年度に一部の分析を行った。その結果、人口変動と儀礼活動に予想以上に強い連動性を確認できた。これは従来の縄文時代儀礼研究に新たな展望を拓く可能性を示唆する成果であり、新しい研究領域開拓のための理論やモデルを構築する必要性が生じてきた。本年度から一部に着手し、令和3年度もこの方面の研究を継続する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
人口推定手法の改良作業と新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、住居跡数と土器型式別遺跡数のデータ整備作業のスケジュールに変更が生じた。そのため旅費およびデータ整理作業補助のための謝金が次年度使用となった。これらについては令和3年度に可能な限り執行する。また、令和2年度に発表を予定していた国際学会は延期を重ね令和4年度に開催予定となったため、執行をその年度に予定せざるを得ない。 物品費については、長年使用している液晶モニタの更新を予定していたが今年度もなんとか使用に耐えたため、機器の状態を監視しながら令和3年度の購入予定とした。
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