研究課題/領域番号 |
19K01118
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中村 大 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 助教 (50296787)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 東北北部 / 縄文時代 / 人口変動 / 儀礼(祭祀・墓制) / 文明レジリエンスモデル / 圏論 / コミュニティ / 情報 |
研究実績の概要 |
東北北部の縄文時代における人口変動と儀礼(祭祀・墓制)の変化について予想以上に強い連動性を発見したことをうけ、本年度はそのメカニズムを説明し社会における儀礼の機能を再検討するための「文明レジリエンスモデル」構築を進めた。このモデルは、現代数学の圏論をベースに、社会生活を支える文化・交流活動と経済・政治活動を行う4つのサブシステム群の関係を八面体図式で示すもので、この総体を本研究では文明と呼んでいる。本研究では「情報」「コミュニティ(交流体)」「レジリエンス(柔軟な対応力)」の重要性に着目した分析を行うが、このモデルで社会生活(文明)システムの全体像を明確にすることにより、本研究の位置づけと今後の展望を明確に示すことができる。 社会生活を営むうえで、資源は食糧や資材として生活を物理的に維持し、情報は経済的価値・文化的意味を形成し社会交流(コミュニケーション)を継続させる。また、社会は資源と情報を扱うために、生存という明確な目的を共有し資源を獲得・分配する「組織」と、儀礼を通じ広範な人びとが交流し文化を育む「コミュニティ」の2種類の集合様式を使い分ける。組織は活動の駆動力(ダイナミクス)を生み、コミュニティは物事の価値・意味・象徴性などについて一定の共通性と複声性を与え、人びとに認識的枠組みを提供する。 人口変動は社会関係や信念・規範に影響を与え、文化情報をかく乱する。社会は儀礼を活発にさせ交流を促進して確立していた情報の維持に努める一方、儀礼の多様化で新奇な情報(価値・意味)を創出し世界の変化に対応する。情報レジリエンスは道徳や価値観など文化情報の継承と革新を柔軟に行う能力であり、変転する世界での社会生活を情報面から支える。 さらに、このモデルは社会の自己組織性研究やギデンズの構造化理論とも関連し、現代社会の研究や組織・コミュニティのデザインにも応用できる可能性を秘めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の第一の目的である縄文時代人口の推計については、計算方法の改良研究が進展している。研究を進めるなかで、①当初採用していた住居跡数にもとづく推計で生じる人口過少推定問題、②人口変動の速度と大きさを適切に評価するための時系列データ(100年幅の時間ブロック毎の住居跡数や遺跡数)の必要性という、2つの課題が明らかになった。そして、課題①については、遺跡数変動パターンが住居跡数よりも発見の偶然性バイアスの影響を受けにくいことを明らかにし、1遺跡の人口係数という新たな項を加えた計算方法を開発した。これは、1軒の居住人数など計算根拠が明確な住居跡数による推定と、変動パターンの安定性がよく過少推定問題を回避できる遺跡数による試算の両者を融合した新たな人口推定手法である。また、課題②ついては、東北北部の土器編年および暦年代を整理し、縄文早期から晩期(10500-2300calBP)まで100年幅の時間ブロックに対応する土器型式の確率分布データを作成した。 もう一つのテーマである人口変動と儀礼変容の関連性分析については、本年度の実績概要で述べたように、「文明レジリエンスモデル」のプロトタイプを作成したことは大きな成果である。このモデルでは、「情報」「コミュニティ」「レジリエンス」の観点から、儀礼を人口変動に対してコミュニティが発動する情報レジリエンスと解釈する。本モデルは、レジリエンス・エンジニアリング、自己組織化研究(エリッヒ・ヤンツほか)、情報理論(西垣通、吉田民人ほか)、情報工学(成瀬誠、堀裕和ほか)、批判的社会科学(佐藤春吉、バース・ダナーマークほか)、脳科学(乾敏郎、カール・フリンストンほか)の諸研究を参照している。 しかしながら、分析に必要なデータの整備は、新型コロナウィルス感染問題のため遅れが生じている。以上から、現在までの進捗状況についてこの判断とした。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の遂行にあたり、1年ごとにデータの取得と分析を繰り返し、最終年度に結果の解釈とモデル化を行うという当初予定していた帰納法的な研究の進行計画は、新型コロナウィルス感染症問題の影響を受け大幅な変更を余儀なくされた。そこで、演繹法的な研究の進め方に切り替え、部分的なデータを使いながら推計手法と解釈モデルの構築および改良を先行して進め、分析手法と説明・解釈理論の質の向上に努めてきた。これにより、分析に必要なデータの項目や精度をより明確に指定できるようになり、データ取得のための出張調査を本格的に再開したときにより効率的なデータ収集作業を行うことができるようになる。結果的に、感染症問題の影響を最小限に抑えることにもつながる。 以上のような進捗計画の変更により、2022年度は住居跡数や土器型式別遺跡数、儀礼(祭祀・墓制)に関連する遺構・遺物のデータ整備に重点を置く。
|
次年度使用額が生じた理由 |
モデル構築作業に重点を置いたこと、新型コロナウィルスの感染が再び拡大したことにより、データ整備作業のスケジュールに変更が生じた。そのため旅費およびデータ整理作業補助のための謝金が次年度使用となった。これらについては令和4年度に可能な限り執行する。また、令和2年度に発表を予定していた国際学会は令和4年7月に開催が決定したため、関連する旅費や英文校閲費などは令和4年度に執行予定である。 物品費については、長年使用している液晶モニタの更新を予定していたが今年度も使用に耐えたため、機器の状態を監視しながら令和4年度の購入予定とした。
|