研究課題
淀川・大和川河口の低地にある大阪は、治水なくして都市の形成・拡大はあり得なかった。本研究では、急速に進展した古地形復元と発掘成果を手がかりに、考古学・地質学・河川工学の協働によって大阪中心部の5~17世紀の治水・水防の実態の解明を目指した。堤防などの治水建造物は以降の町の造成や形態に影響を及ぼしており、都市形成との関係についても考究した。最終年度は、大阪・和歌山をはじめ各地の発掘された治水遺構に対する研究会、山梨県釜無川・御勅使川流域や熊本県緑川河口などの研究先進地や大阪と類似の環境下にある地域の巡検、大阪市内の発掘資料の年代測定・珪藻分析などによる古地形復元の修整を行った。4年間の研究成果は『大阪中心部における5~17世紀の治水・水防遺構と都市形成過程の研究』(総156頁・500部)にまとめ、約400ヶ所の大学・図書館などへ送付した。成果の一部は報告会で市民に公開した(12月10日・大阪歴史博物館)。本研究の主な成果は以下の7点である。①新たな古地形復元を土台にした、通説を改める「難波堀江」像の提起。②古地形復元と発掘調査などによる8世紀末の「三国川(神崎川)開削」の実態の究明。③発掘調査・絵図などによる淀川三角州の開発過程、灌漑、水防の実態の解明。④同様の手法による淀川三角州より南(難波砂堆)の沿海開発の過程と手法の解明。⑤神崎川・中津川・大川の流路固定の過程と豊臣期城下町の治水システムの解明。⑥大阪の古地形復元の修整と進化。⑦各地の治水遺構の集成とその意義付け。以上により、記録に残る17世紀以降の江戸幕府の流域治水と河村瑞賢による一連の事業までに至る前史の空白を埋めることが可能となった。本研究の方法は他の地域にも適用でき、発掘調査を活かした新たな調査・研究法の開拓という点でも意義がある。
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南秀雄他『大阪中心部における5~17世紀の治水・水防遺構と都市形成過程の研究』
巻: 0 ページ: 81-104
巻: 0 ページ: 141-156
大阪歴史博物館研究紀要
巻: 21 ページ: 19-42
巻: 0 ページ: 105-120、巻頭図版1-3
巻: 0 ページ: 121-140
大阪市文化財協会研究紀要
巻: 24 ページ: 1-32