最終年度は本研究の成果として報告書作成に重点を置いた。本研究は馬と塩の関係に関する研究だが、いずれも手工業生産の一要素でもあるので、他の手工業生産の要素も含めて総合化を目指した。第一義には馬と塩の関係性の追究にあるので、まずはそれらが共伴する遺構・遺跡の分析に重点を置き、さらに他の手工業生産の要素も含めて検討した。対象は古墳時代~飛鳥時代の王権中枢が所在した奈良盆地をメインにした。 馬についてはウマ遺存体、塩については製塩土器を核にし、古墳時代の奈良盆地において拠点となる大型集落の布留遺跡、十六面・薬王寺遺跡、南郷遺跡群における状況を整理し、馬と塩の関係性を追究した。あわせて馬具製作に関わったと想定される鍛冶関連遺物、馬に関する木工の成果としての木製馬具、どの地域と関わったかを調べるために外来系土器も分析した。 その結果、馬と塩は密接な関係にあると想定できたが、完全には一致しないこともわかった。また、上記3遺跡ではその他の手工業生産の要素も共伴する場合が多いこともわかった。これにより、馬体を維持するためにはさまざまな手工業生産の成果が必要だということがいえるが、従来の研究ではそれらは豪族居館や地域の拠点となる遺跡で確認される場合が多かったので、馬を飼育する拠点である「牧」は、豪族居館に匹敵する施設が必要である可能性が出てきた。 また、外来系土器の分析から、その飼育には韓半島やさまざまな地域の集団も関わった可能性を指摘できるので、謎の多い「牧」を明らかにするには、他地域の動向解析も必要であるといえ、本研究では当時の馬飼育先進国であった中国の動向も加味した。 以上より、本研究では馬と塩の関係性を起点に分析したが、馬飼育を維持するためには豪族居館クラスの施設や馬飼育先進地域との交流が必要であることが想定されたので、来るべき総合研究ではその点を追究していきたい。
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