研究課題/領域番号 |
19K01126
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
田端 正明 佐賀大学, 理工学部, 客員研究員 (40039285)
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研究分担者 |
西本 潤 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (80253582)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 出土磁器 / 産地推定 / 胎土組成 / 水簸 / 元素移動 / シンクロトロン / 蛍光X線分析 / 有田焼 |
研究実績の概要 |
1.世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼・造船・石炭産業」の構成資産である三重津海軍所跡(佐賀市)から出土した磁器、52点、の胎土組成を九州シンクロトロン光研究センターでの蛍光X線分析法で求めた。磁器の胎土組成は、原料である陶石よりも水簸(すいひ)工程で製造される陶土に依存すると考えた。陶土は水簸工程で元素の溶解度差によって分離精製された粘土であるので、磁器の胎土組成を元素の水への溶解度差に基づいて分析データを解析すると、生産地毎にデーターは集まった。即ち、考古学的手法により肥前産と考えられていた磁器が有田、志田、波佐見産と区別された。更に、三重津海軍所出土磁器よりも200年前の有田焼の黎明期(1600~1650年)の窯跡から出土した磁器についても同様な解析を試みたところ、全く同じ結果が得られた。即ち、本産地推定法は製作年代によらないことが明らかになった。 2.蛍光X線強度を単一エネルギー(波長)で測定していたが、蛍光X線強度が弱い元素については、バックグランドの影響が大きく産地との関係を明らかににすることが出来なかった。そのために、解析ソフトOrigin Pro(2019)を購入して、バックグラウンド補正と各元素の蛍光X線スペクトルの積分強度を求めるようにした。その結果、低エネルギー側に蛍光X線を発する微量元素(Ni,Cu,Zn,Ge,Pb,As)の含有割合を今までよりも正確に求めることができた。その結果を産地推定法に加え、磁器製造における陶石や水簸工程における窯元ごとの違いを更に詳しく評価できた。 3.研究成果を「水簸工程における元素の溶解度差に基づく産地不明の出土磁器の新規産地推定法」と題して日本文化財学会で口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三重津海軍所跡(1858~1681年)から出土した磁器について水簸工程における元素移動に基づく産地推定法を有田焼黎明期(1600~1650年)の磁器に適用したところ同じ結果を得た。即ち、本産地推定法は製作年代に関わらず古陶磁器に適用できることが明らかになった。そして、30kmの範囲内にある肥前域内の窯元の磁器製造法の違いを区別できた。 さらに、シンクロトロン光施設における蛍光X線分析測定装置には市販の蛍光X線分析装置のようなスペクトル解析プログラムは付属していない。その結果、含有量が少ない弱い蛍光X線スペクトルは解析できなかった。今回はじめてOrigin Proを使い、微量元素の積分強度およびスペックトル解析およびバックグランド補正が可能になった。その結果、シンクロトロン光施設での蛍光X線分析法の精度を向上できた。
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今後の研究の推進方策 |
1.陶土製造において水簸は現在も行われている。従って、陶土製造会社に出向き、陶土製造における各プロセス毎に(陶石粉砕、粗分離、水簸(上澄み液、コロイド沈殿物)、除鉄、圧縮、陶土)で試料を採取し、個々の試料中の元素濃度をシンクロトロン蛍光X線分析法でもとめる。特に各プロセスにおける元素濃度の変化から、元素移動を明らかにする。溶解度差に基づく本産地推定法を確証する。
2.考古学的手法による産地不明の出土磁器は、その絵柄、形で産地が推定されてきた。しかし、出土磁器の中には磁器に描かれた絵柄や文字銘の描き方が少しだけ違うものがある。それら産地推定は困難である。今後は、少しだけ絵柄や文字の描き方が異なる磁器について、本法による産地推定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
スペクトルメーターを取り付ける現有顕微鏡のレンズに一部かびが発生しており、付属品のセットと整備に時間がかかったため。令和2年度にはセットは完了する予定です。
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