研究課題/領域番号 |
19K01126
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
田端 正明 佐賀大学, 理工学部, 客員研究員 (40039285)
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研究分担者 |
西本 潤 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (80253582)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 磁器 / 産地推定 / 水簸 / 三重津海軍所跡 / 有田 |
研究実績の概要 |
三重津海軍所跡(佐賀県佐賀市、世界遺産登録2015年)から300以上の磁器が出土した。しかし、磁器の生産地は不明であるので、生産地を推定するために磁器の胎土組成をシンクロトロン光蛍光X線分析法で決定した。そして、分析結果を磁器の製造工程で欠かせない水簸工程での元素移動の違いに着目して、磁器の生産地を推定した。水簸工程では、水に溶けやすいアルカリ元素は水とともに流れ、水に溶けにくい元素はコロイド状の泥漿(陶土)とともに移動し、磁器の胎土中に混入する。従って、水に最難溶性の元素(Nb)を基準に難溶生元素(Zr)と可溶性元素(Rb)の濃度比から、生産地を推定した。三重津海軍所跡から出土した磁器は3つのグループに分かれた。それらの生産地は有田(佐賀県西松浦郡)および有田から5~20 kmの近郊の志田(佐賀県嬉野市)と波佐見(長崎県))であった。産地不明の磁器を磁器の製造工程における水簸工程での元素移動にもとづいて解析・分析した例は本研究が最初である。今まで、推定される原料(陶石)の組成と磁器の胎土組成の比較から磁器の生産地が推定されていたが、その手法では不十分であることが判明した。我々の手法を有田焼きが始まった1600年代初期に出土した磁器に応用した。その結果、幕末期(1800年代)に有田で生産された磁器の胎土組成比のプロットとほぼ同じであった。即ち、本法は出土時期が200年も違う磁器についても同一地域の磁器の生産地を推定できることが明らかになった。胎土組成比プロットの部分的な違いから、有田焼きが泉山陶石を使って本格的に生産されるより以前から、有田の西地域の一部の窯跡で磁器が制作されていたことも明らかになりつつある。また、生産地以外で出土したオランダ東インド会社(VOC)の銘がある磁器の産地を本法で推定したところ、全て有田で生産されたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・本手法を用いて、三重津海軍所磁器が出土した時期より200年前の有田焼きの始まりの頃の磁器の産地を推定することができた。 ・生産地以外で出土したオランダ東インド会社(VOC)の銘がある磁器は全て有田で生産されたことが明らかになった。 ・しかし、コロナ禍により大学で行動制限が発令されたために、磁器の試料調査が十分できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
・コロナ禍で試料採取が不可能であったので、2023年度は他の地域での陶石採取と磁器の借用を行う。そして、胎土組成分析と水簸工程での元素移動則に基づく産地推定を行う。 ・江戸時代の有田近郊以外の窯跡から出土した肥前磁器について、胎土組成と窯跡の違いについて調査する。特に生産地以外で出土したオランダ東インド会社(VOC)の銘がある磁器の産地推定を実施する。 ・コロナ禍で海外渡航が困難であったので、2023年度は海外での国際会議で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために大学で行動が制限されて、学外での出土磁器の調査が困難であった。 今年度は学外での試料調査を行い、磁器の産地について実験を実施する予定である。
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