これまで、鉱山遺跡の文化的価値を高めるため、人が立ち入ることができない鉱山坑道内の定量データを測定できる遠隔操作型ロボットを開発し、全国各地の鉱山坑道内を調査してきた。この結果、坑道内の断面形状および採掘傾斜と採掘年代にある程度相互関係があることが分かった。しかし古文書等に記載されている鉱山絵図等には鉱脈近くの斜面にいくつもの坑道が散在している。そのため坑口付近を広範囲に測定し坑道の相互関係を求めることが近世の採掘方法を理解するうえで重要な要素であると考えている。本研究ではこの考えに基づいて、空間を3次元点群データとして測定可能な3次元レーザスキャナを用いて、坑道内や坑道が散在する斜面形状を測定し、採掘時の状況を再現する新たな手法を提案した。更に、全国各地の坑道内部や坑道周辺の3次元点群データを取得して、提案手法を用いて開発時の鉱山遺跡を再現し、近世に描かれた鉱山絵図と比較することによって鉱山坑道開発の歴史的変遷の解明を行った。この過程で中世の採鉱方法は大きく「地表採掘」と「地中採掘」に分けることができることがわかった。地表採掘とは岩石や鉱脈の一部が地表に現れている「露頭」部を目安に採掘する手法である。一般的にこれを「露頭掘」と呼ぶ。鉱山開発の初期段階は主に露頭掘が行われたと考えられる。また、古代から近世は「露頭」の中でも鉱物が多く含まれる富鉱帯のみを採掘した。更に、地表に露出している露頭を掘り尽くすと地中へと掘り進む。坑内採掘とは地表の露出している鉱脈を目安に地中の富鉱帯を求めて掘り進んでいく方法である。これを「坑道掘」と呼ぶ。今回の3次元レーザ測定結果より、露頭掘跡から坑道掘へ変遷した採掘跡が多数残存していることが確認された。
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