研究課題/領域番号 |
19K01133
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館 |
研究代表者 |
高嶋 美穂 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 特定研究員 (80443159)
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研究分担者 |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40392550)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膠着剤 / 展色剤 / 膠 / LC-MS / ELISA |
研究実績の概要 |
1)ELISA法におけるコーティングバッファーの改善および抗体の変更:サンプル溶出液を炭酸水素ナトリウムバッファーで希釈する際の希釈率を上げることで、抗植物ガム抗体の反応を上昇させることができた。また、抗コラーゲン抗体の製造中止を受けて代替品を選択した。 2)樹脂フィルムを用いたサンプリング法(フィルム法)の検討:トリプシンを含むC18樹脂フィルムを作品や資料表面に張り付けることで膠着剤に含まれる蛋白質のみをフィルムに吸着して、LC-MSで分析する方法である。経年した絵画レプリカにおいては、100μg/100μL濃度のトリプシン溶液で処置したフィルムを10分間ほどレプリカ表面に貼り付ければコラーゲンのマーカーペプチド検出やデータベースによる蛋白質検出が可能となり、コラーゲンの動物種の検出やミルクカゼインの検出が可能であることがわかった。しかし実資料においては現時点ではうまく検出できていない。トリプシン量の増加や、フィルムをサンプル上に張り付ける時間を長くすることで検出感度が上がるが、資料が傷んでしまう。 3)膠製品の動物種の同定:市販されている数種類の膠製品について、マーカーペプチドの検索と蛋白質のデータベース検索を行った。ウサギ膠、ヤギ膠、シカ膠、イノシシ膠とされている商品にウシ膠が混合していることや、阿膠とされている膠にもウシ膠が混ざっていることなどがわかった。今後はブタとイノシシの区別、ウマとロバの区別について検討を進めていく。 3)実作品の試料の分析:国立西洋美術館所蔵作品であるモネ≪睡蓮、柳の反映≫から採取したサンプルのマーカーペプチドの検索とデータベース検索をを行い、ウサギ膠とチョウサメ膠を検出した(昨年度からの継続)。アフガニスタン出土の仏頭2つ(粘土像、1~5世紀)の下塗りおよび彩色部分のサンプルからは、ウシ膠を検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年3月初めからはコロナウイルス感染症対策による影響により、通常より短時間しか出勤できなかったり自宅待機となった日が多く、予定していた実験がほぼ実施できなかったため。また、これまで使用してきた抗体が製造中止になってしまったため、代替品を探すのに時間がかかってしまい時間が足りなくなってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、1)絵画レプリカサンプルの作成(継続)、2)ELISA法におけるサンプルの前処理(クリーンアップ)の試み、3)ELISA法における、顔料や経年が与える影響と、検出不可能なパターンの明確化、4)樹脂フィルムを用いたサンプリング法の検討(継続)を行う。2)については2019年度中に実施する予定であったが、今までELISAにおいて使用してきた抗体の製造中止にともない代替品を選択する必要性にせまられ、その作業に時間がかかったために2)を進めることができなかった。2021年度は研究代表者の所属機関において建物の大規模な改修が予定されており、実験や分析機器による分析が大幅に制限されるため、研究協力者による研究を中心に進めることになる。2021年度は1)LC-QTOF/MS法(液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析法)の導入と検討、2)LC-QqQ/MS法における、顔料や経年や夾雑物が与える影響と、検出不可能なパターンの明確化を行う(これまでに作成した絵画レプリカ使用)。2022、2023年度は、2019-2021年度間に終わらなかった実験の遂行と、実資料の分析やこれまでの成果の発表を中心に行う。 ELISA法、GC-MS法は研究代表者(高嶋)が担当し、LC-QqQ/MS法、LC-QTOF/MS法、フィルム法は、株)ニッピ・バイオマトリックス研究所所属の服部、多賀、熊澤(すべて研究協力者)が担当する。研究分担者である谷口は、実試料の調達・調整、試料の顕微鏡観察などを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染防止の処置による影響で、2019年3月にほとんど実験ができず計画に遅れが生じたため、購入予定の抗体を購入しなかったため。2020年度には購入する。
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